あ、花守環奈。
総務を訪れた麻沙子は、立ち上がり、書類を手に課長のデスクに行こうとしている環奈に気がついた。
たまたま近くにいたので、ちょっと嫌がらせをしてみることにする。
仲のいい先輩なら、ちょっとした悪ふざけのようなものなので、
「もう~、やめてくださいよ~」
となるところだろうが。
後輩に懐かれるような性格でない自分がやると、ほんとうにただの嫌がらせだ。
だが、そうわかっていて、麻沙子は環奈の前に立ち塞がった。
ふふ。
どう?
あんたはまだまだ新人。
怖い女の先輩に退いてくださいとも言えずに、まごまごするか。
すごすごと引き返すがいいわっ!
そう麻沙子が思い終わらないうちに、環奈が言った。
「退いてください」
「えっ?」
「退いてください。
通るので」
「……言っちゃうんだ?」
「えっ? はい、通るので」
二人はなんとなく見つめ合った。
近くの席にいた麻沙子の同期の平井弘章が、
「なにやってんの?」
と席から振り仰ぎ、笑って言う。



