「暁月さんに絶対服従 ~隠れ家カフェの常連日記~」

 環奈は木の切り株のような皿にのったトマトを食べながら言う。

「このトマト美味しいです。
 青臭くなくて」

「ああ、うちの家庭菜園で作ってるやつ」

「そうなんですか。
 うちの家庭菜園でもトマト作ってるんですけど、なかなか……」
と環奈は苦笑いする。

「ところで、前から思ってたんだけど」
「はい」

「なんで、君らは離れて座ってるの? いつも」

 え? と環奈はトマトから顔を上げる。

 西山は反対側の端に座っている若いサラリーマンを見ていた。

「いや、同じ会社の人だよね?
 挨拶もしないし、なんで?」

 端に座っていたポリバケツを退けた男は、
「……なんでわかりました?」
と西山を見上げている。

「ああ、いつか同じ社章つけてたから」

 そこで、ポリバケツ男、滝本はこちらを振り向いて言う。

「花守っ。
 お前、なんで社章なんてつけてるんだっ」

「ああ……そこに社章があったので」

 そんなことを環奈は言った。

 環奈たちの会社では、男性は社章をつけていることが多いが、女性はつけていないことが多い。

 女性はスーツの形がいろいろで、つけにくいこともあるので、別につけなくてもいいらしいのだ。

「滝本課長こそ、会社出たら外してるじゃないですか、いつも」

「出先からの帰りに寄ったことがあるんだ、この店にっ」