「暁月さんに絶対服従 ~隠れ家カフェの常連日記~」

 すると、カウンターの端ら辺にいたグレーのスーツのサラリーマンが、
「あ、それ、退けておきましたから」
と言う。

「あ、そうなんですか。
 すみません」
と西山が彼に詫びる。

 西山は、こちらを向いて、
「お前も退けてくれてもよかったんだぞ」
と言ったが、

「いや~、なんらかの意図があって置いてあるのなら、退けたら悪いかなと思って」
と環奈は笑う。

「ポリバケツを置く、なんらかの意図ってなんだよ」

 そう言う西山に真ん中に座っていた太った中年のサラリーマン風の男が、
「この店の営業妨害じゃないの」
と言い、ねえ、とこちらを見て彼も笑った。

 先に食べ始めていたおじさんは立ち上がり、
「ご馳走様」
と言った。

「あ~、久しぶりにここ来たよ~。
 最近、忙しくてさー」

「今度はぜひ、奥様もご一緒に」

「そうだねえ。
 今日は友だちと芝居観に行ってるらしくて」
と世間話をしたあとで、おじさんは出て行った。