「暁月さんに絶対服従 ~隠れ家カフェの常連日記~」

 


 よりにもよって、麻沙子は環奈との共同作業になってしまった。

「暑いですね。
 どうぞ~」

 微笑んで、客に凍った飲み物を渡している環奈も暑いだろうに、ずっと笑顔で。

 いろいろ訊いてくるご老人や子どもたちにも常に親切だった。

 人波が途切れたころ、麻沙子は環奈に言った。

「それ、私たちの分もあるから飲んでいいわよ」

「ありがとうございますっ」
と言った環奈はまず麻沙子に、

「どれがいいですか~?」
と訊いて渡してくれる。

 部活にこんな後輩がいたら可愛がるわね。

 でも、この女には、どうしようもない救いようのない欠点があるのよっ。

「もう座っていいと思うわ。
 飲みましょう?」

「ありがとうございますっ」

 二人で折りたたみの椅子に並んで腰掛け、かなり溶けてきたジュースを飲む。

 麻沙子は、今だっ、と思って訊いた。

「あんた、課長と結婚してるんでしょ」

「えっ? いいえ……」

 そのまま、環奈は沈黙する。

 かかったわねっ。
 私は何処の課長とも言ってないわっ。

 普通、えっ? 何処の課長とですっ? って反射で言うでしょ。
 思い当たる節がなかったらっ。

「私、見たのよっ。
 あんたたちが婚姻届をとりにいくところをっ。

 ……ひっ」

 ひっ、は環奈が飲んでいたジュースのパウチをぐしゃっと握りつぶしたからだった。