「暁月さんに絶対服従 ~隠れ家カフェの常連日記~」


 

 環奈たちが帰ったあと、西山はグラスを磨きながら思い出していた。

 カウンター席から少し身を乗り出し、
「結婚してくださいっ」
と満面の笑顔で言ってきた環奈の姿を――。

 どきっとする笑顔だった。

 いや、単に食い意地が張ってるだけなんだが……。

 カウンターには今はひとりだけ。

 その客は身内のようなものなので、もう仕事は終わったも同然だった。

 気を抜いていたので、ふっと思い出し笑いをしてしまう。

 すると、自分の斜め前に座って呑んでいた、その最後の客、新浜(にいはま)が笑って言う。

「あの人、昨日、スーパーで会ったよ。
 環奈さん。

 二割引のお肉譲ったら、すごい感謝された。

 ――あんな綺麗な人にプロポーズされたら、嬉しいよね」

 新浜はこちらを見ながら、そう付け足した。

 見た目は繊細な美少年といった感じだが、中身はそうでもない。

「あんなの、ただの冗談じゃないか」

「『ああ』って言ってたじゃん」