「暁月さんに絶対服従 ~隠れ家カフェの常連日記~」

 


「――と思ったんですよね、最初にここに来たとき」

 環奈はバーテンダーかと思った店長の西山にそう言った。

 ほんとうに西山という名前なのかは知らない。

「西山薬局だから、西山で」
と言われただけだからだ。

 環奈は店内を見回し、外を見て言う。

「こんな細い路地の突き当たりにある店、怪しい感じがして、お客さん入りづらいですよね。

 薬局だったときも、この配置だったんですよね?
 どう考えても、ヤバいものしか売ってなさそうなんですが」

「……花守。
 常連なら、なに言ってもいいと言うわけじゃないからな」

 低い声で西山は言う。

「いやいや、最初に入ったとき、勇気が行ったって話ですよ」

 木の器にのったウニの焼き菓子みたいなものを食べながら、今日も酒が進むなあ、と環奈は思っていた。

「今日なんか、あの、それでなくとも細い道がポリバケツで塞いであって。
 今日、店、お休みなのかなって思ったんですよ」

「……そりゃ、うっかり、ポリバケツを誰かが置いただけだろ。
 っていうか、塞いであったのを(また)いできたのか」

「そうなんですよ」

 奥に入り、次の料理を作ろうとした西山だったが、

「……退けてくるか」
と出て行こうとした。