ある日、環奈は来たが、滝本は来なかった。
モヒートを呑んでいる環奈に西山は訊いた。
「今日は来ないのか、滝本さん」
環奈は滝本がいつも座っている席を振り返り、
「来ないみたいですね」
と言う。
あまり興味関心はないようだった。
ほんとうにただの上司と部下なのか。
いや、そんなはずはない。
滝本には怪しい心の中の妻がいるようだが……。
なんだかほんとうに怪しいので――。
「別の店に行ってるんじゃないでしょうか」
と言ったあとで、環奈は、ハッとした顔をし、
「他にいいお店を開拓したとかっ?」
と言う。
……お前もそっちに移るつもりか。
っていうか、店主の前で言うな。
「そういえば、このお店、隠れ家カフェって、隠れてて儲かるんですか?」
と環奈が訊いてくる。
「……あんたたちがずっと来てくれる限りはな」
最近よく、寝る前の一杯を呑みに来てくれる近所の老夫婦がテーブル席で笑っていた。



