「暁月さんに絶対服従 ~隠れ家カフェの常連日記~」




 その環奈が言うところのピッグステーキと赤ワインと、ちょっとしたサラダで食事にした。

「数日経ってどうだ?」
「え?」

「なんだかんだで、あの男と今までずっと一緒にいたんだろ?
 寂しくないのか?」

 例の許嫁と別れたことについて訊いてみた。

 同居人として、今後、その話題に触れていいのか確認するためだ。

「そうですねえ。
 確かに、彼と過ごした日々を思い出すと、ちょっと寂しいですね」

 ほう、と滝本は意外に思った。

 あまり会っていなかったと言っていたが、やはり、それなりの思い出はあるのか、と思ったとき、環奈が遠くを見つめて言った。

「彼と行った店で食べた裏メニューの、なんかお洒落なミートボール。

 彼のおばあさまの別荘で出た温泉で蒸されたパスタ。

 コンサートの帰りに寄った店の栗クリームのモンブランみたいなデザート……」

「それ、男との記憶じゃなくて、食い物の記憶だろ」
と思わず突っ込んだが、環奈はこちらを向いて、

「だって、一緒に出かけても、あの人しゃべらないから。
 それで、いつも食べ物の記憶しか残らないんですよ」

 いや、コンサートにも行ったんだろ。
 音楽の記憶は残らないのか、このピッグステーキめ、と思いながら、環奈が買ってきた赤ワインを呑む。

 環奈がこちらを見て、
「それ、課長の好みじゃないですか?」
と笑った。