「暁月さんに絶対服従 ~隠れ家カフェの常連日記~」

 巨大なソテツの陰になっている古いガラス扉には『西山薬局』の文字。

 薬局?

 いや、薬局をリノベーションした店かな?
と思いながら、入ってみた。

 店内は落ち着いた雰囲気で、灯りも暗め。

 カフェというより、バーのような雰囲気だ。

 厚みのあるどっしりとした木のカウンターが細長い店の大部分を占め、昔、薬を待つためにみんなが座るスペースがあったのかなと思われる窓際に、ちょっとだけテーブル席がある。

 男にしては少し長めの黒髪の、バーテンダーのような雰囲気の若い男がこちらを見る。

「いらっしゃいませ」

 男は色白で鼻筋の通った綺麗な顔をしていた。

 私が生まれてから見た男の人の中で、二番目に綺麗な顔だな、と環奈は思った。

 まあ、そこは好みの問題もあるかもしれないが――。

 何処に座ってもよさそうだったので、カウンターの隅に腰掛けてみる。

 反対の端には別の客がいたからだ。

 すぐに水とメニューが出てきた。

 ワイン色の高級感あるスエード生地のメニューだ。

 なににしようかな……。

 なんでもあるな。

 フルコースから焼きそばまで。

 帰ってから、晩ご飯作らなきゃと思ってたんだけど。

 まあ、別にいいかも。

「おまかせで」
とメニューを閉じると、はい、とそのバーテンダーのような男性は微笑む。

 他の場所からも、
「おまかせで」
と聞こえてきた。

 おまかせが人気なのかな、と環奈は思う。