私、結婚はしてないけど、許嫁はいるんだよな、と環奈は思っていた。
しかも、その許嫁はうちの会社に現れる。
取引先の社長の親族だからだ。
でも、向こうがこの結婚に乗り気でないのは知っている。
そのことをなかなか言い出せないまま、この年になってしまったことも――。
部長がガラス張りの応接室から、こちらに向かい、笑顔で手招きしてきた。
その許嫁の彼、筑紫聖一が仕事でこちらに来ているらしい。
自分と彼が許嫁同士であることを知っている部長は、こうして彼が来ると呼んでくれるのだが――。
部署と繋がっている窓のブラインドを閉め、では、若いお二人で、とばかりに部長はいなくなってしまった。
……廊下側は開いています、秋元部長。
秋元部長は、そんなところがちょっと憎めない、丸い感じのおじさんだ。
だが、聖一と二人、部屋にとり残された環奈は困った。
そんなに二人で会うこともないので、会話がない。
彼はこんなとき、いつも、ちょっと困った顔をして黙っているのだが、今日は違った。



