「よしっ、愛媛に来た目的は果たしたので――」
「帰る気か」
「なにか食べて呑みましょうっ」
「いや、観光しろ」
道後温泉からまっすぐに伸びた、まるで縁日のように賑やかな通りを歩いていると、黒と赤が鮮やかな人力車が走っていく。
滝本が振り返りながら言った。
「あれに乗ったらどうだ?
旅に来たって感じがするだろ?」
「そうですねえ」
「写真撮ってやるから、乗れ。
お前、似合いそうだし。
聖一に送ろう」
「……なに仲良くなってるんですか。
そういえば、私、聖一さんのメールアドレスしか知らないんですけど」
とメッセージアプリを開いている滝本のスマホを見ながら言う。
聖一のアイコンは白黒の猫だった。
飼い猫なのかな?
許嫁なのに、そんなことも知らなかったな、と思ったそのとき、被せるように滝本が言ってきた。
「許嫁なのにか」



