「暁月さんに絶対服従 ~隠れ家カフェの常連日記~」

 こっちを覚えてないといいんだが、と思ったが、許嫁が断る理由にした男を忘れているわけもなかった。

「滝本さんじゃないですか。
 環奈と一緒ですか?」
と聖一が話しかけてくる。

「いや……。
 あいつは今日は――」

「お友だちと呑みだそうですよ」
と中谷が代わりに答えてくれる。

「そうなんですか」
と聖一は愛想良く中谷にも答えていた。

 気持ちのいい男だ。

 なんで、花守はこの話、断ったんだ?

 ああ、この男に他に好きな相手がいるからとか言うんだったか。

 そりゃあ、あのとぼけた女より、もっといい女が寄ってくるよな、こんな男なら、
と思いながら、滝本は精悍な聖一の横顔を眺めた。

「一度、滝本さんとお話ししてみたかったんですよ。
 いいですか?」
と聖一が訊いてくる。

「どうぞ」
と滝本は環奈も座らない隣の席を勧めた。

 二人でしばらく環奈とは関係のない話をしていた。

 環奈の元許嫁だと聞いたらしい新浜が奥から出てきて、一皿置いていく。

 聖一をまじまじと観察していった。

 ……いや、まったくさりげなくないですよ、新浜さん、と滝本は苦笑いする。

 そのとき、聖一が、
「あの、もしかして、環奈は僕との話を断るために、あなたに頼んだんじゃないですか?」
と言い出した。

 ……バレてる、と思いながらも、環奈との契約が反故になったら、こっちも困るので、

「いいや」
と滝本は言い張る。