「課長、私、目が悪いの知らなかったみたいなんですよね」
知らなかったことに、ビックリしました、と環奈は言った。
今日の社食は麻沙子と二人きりで、ちょっとみんなから離れた窓際の席に座っていたから、その話をしたのだ。
この社食のざるそば、つゆが絶妙なんだよな、と思いながら、するする食べる。
新浜さんがたまに、ちょっとだけ、そば出してくれるけど。
あの出汁はかなり薄味なのに、なんとも言えない含みのある味で。
確かにレシピ聞いたところで腕がなければ、再現できそうにない。
「えっ? 結婚するのに?
駄目よ、そんな取り繕ってちゃ、上手くいかないわよ」
と言われて、え? と思う。
「あんた、メガネかけたら、ひどいもん。
見せたくないんでしょ? その姿」
……確かに。
私のメガネ姿はひどい。
なので、滅多に人前でかけることはないのだが。
麻沙子はたまたま、見たことがあったらしい。
「……私、家でまでかけないようにしてたなんて。
無意識のうちに課長に、ひどい姿をお見せしないようにしていたのでしょうか」
「愛ね」
ないはずの愛が何処から……。
不思議に思いながら、よく揚がっている、しその天ぷらをしゃくしゃく食べる。



