「暁月さんに絶対服従 ~隠れ家カフェの常連日記~」

 待てよ。
 呼ばれたのが自分だと思わなかったのかも、と思ったが、廊下ですれ違ったときも、急いでいた環奈にスルーされてしまった。

 いや、なんなんだっ、お前はっ、と思いながら、
「花守」
とデスクから呼ぶと、

「はい」
とすぐに環奈はやってきた。

「……呼ばれたらすぐ来い」

「来たじゃないですか」

 そう言ったあとで、環奈は、
「あ、すみません。
 今、すぐに駆けつけたつもりなんですが、遅かったですか?」
と言いかえてきた。

 上司に、来たじゃないですか、とか、どんな反抗的な部下だ、と思われると思ったのだろう。

「さっき、ロビーと廊下でも呼んだんだが」

「あっ、すみませんっ。
 実は、コンタクトの調子が悪くて、外してるので」

 今はデスクから名前を呼ばれたので来たらしい。

「……お前、目が悪かったのか」

「はい」

「家でもコンタクトなのか?」

「いいえ」

 ……いや、メガネかけてるの、見たことないんだがっ?

「ところで、なんのご用事ですか?」

 何度も呼ばれるくらいだから、急いでいるのだろうと思ったらしい環奈が訊いてきた。

 いや、別に仕事の用事はないんだが、と思いながら、メモ用紙に、さっと書いて、
「これを事業部に」
と言う。

 はい、と言いながら、環奈は受け取った。

 ちなみに、

『今日はうち来るのか。
 新浜さんに聞いたレシピ試してみようと思ってるんだが。

 これ、ほんとに事業部に持っていくなよ』
と書いていた。