檻の羊

「なんで宵って…」

「ああ、ごめん。なんか昔から癖なんだよなぁ。みんなお前のこと″クレハ″って呼ぶじゃん」

「はい」

クラスメイトのほとんどが私のファーストネームが″クレハ″であるかのように、そう呼ぶ。

本名は紅羽宵(くれはよい)
紅羽が名字で、宵がファーストネームだ。

理由は容姿がハーフみたいだから。
両親も祖父母も、どこまで辿っても血筋に外国人は居ない。
純日本人だけどちょっと外国人みたいな顔立ちだから宵よりもクレハのほうがしっくりくるらしい。

「そういう時ってなんか人と違う呼び方したくなっちゃうんだよなぁ」

「なんか特別ってことみたい」

「あはは。そうかもなぁ」

ずるい大人だなぁって思った。
生徒相手になんて罪なことをするんだろう。
だから私も先生を困らせてやりたいって思った。

「じゃあ私も特別な呼び方しちゃおっかな」

「えー、どんなん」

否定しないの、ほんとずるい。

「えっと、そうだなぁ…あ!羊先生だから、めーくん!可愛くないですか?」

「園児みたいじゃん」

そう言いながらもめーくんは楽しそうに笑ってくれた。

この瞬間から、まるでめーくんの特別に本当になれたみたいな気分になって、
私の心はもうめーくんでいっぱいになった。

学校は勉強をする為の場所なんかじゃなくて、めーくんに会える唯一の楽園。
この世に神様が本当に存在しているのなら、この特権を与えてくれたことに感謝状を贈りたい。