檻の羊

「だめだよねぇ。こんな簡単な凶器、出回ってちゃね」

新品だったカッターナイフを汚しためーくんの血。
ポタリ、と滴って私の上靴を赤黒く染めた。

ゆるゆると首の後ろに手を伸ばすめーくん。
パクパク口を動かすけれど、ヒューヒュー呼吸が漏れるだけで声は出ない。

見開いた瞳をジッと覗き込んでみたけれど水分のようなものはどこにも見当たらない。

痛みを感じないのか。
ショックを受け過ぎると泣いている場合じゃないのかもしれない。

めーくんから離れたら支えを無くした身体がガタンッと椅子から落ちて床に転がった。

床に広がっていく血液。
むわっとした生臭いにおいが漂ってくる。

道具が並んでいる棚からハンディタイプの小さめの電動ノコギリを選ぶ。

スイッチを入れる。
ブルッと震えて、振動が腕全体に伝わってくる。

首を押さえたままピクピクと虫みたいに蠢いているめーくんの左手を掴んだ。

そう言えばめーくんは婚約指輪をしていない。
そもそも「婚約指輪」が男性にもあるのかすら分からないけれど。

ああそうか。
私はそんなことも知らないほど子どもだったのか。

そっと、電動ノコギリの刃を当てて、薬指を切り落としてみる。
包丁でアスパラガスを切る、みたいに簡単にスパッと切り落としてしまった。

プシャッと濃い紅の血が飛沫して、私のカッターシャツを汚した。