檻の羊

今日、私のクラスでは技術の授業は無かった。
他のクラスの授業で使ったのか、電動ノコギリやハンドサイズのノコギリのメンテナンスをしたり、
床に散らばっている木屑をほうきとちりとりで掃除しているめーくんのそばに寄った。

「手伝おうか?」

「制服が汚れるから近寄んな」

技術の授業中は大抵、生徒はジャージに着替える。
めーくんは朝はスーツだけど、一日のほとんどをつなぎで過ごしていることが多い。

確かに、今も着ている黒いつなぎの所々が木屑で白っぽくなっている。

めーくんからは甘い香りがした。

「いちご?」

ふと口にした私をチラッと見て、
めーくんは舌をぺろっと出した。

舌先には小さくて丸い、赤色の飴がちょこんと乗っている。

「正解」

「おやつ」

「貰ったぁ」

幼稚園児みたいなふわふわの口調が甘い。

「誰にですか」

「水澤先生」

「…ふーん」

水澤六花(みずさわりっか)先生。
音楽の先生で、二年三組も六花先生の授業を受けている。

端正な顔立ちと、音楽の先生になる為に生まれてきたような澄んだ声。
ゆるく巻いたブラウンのロングヘアが似合う美人。
優しくてユーモアもある先生は生徒からすごく人気がある。

確かめーくんと六花先生は職員室での席が近かった。

むくりと嫉妬が顔を覗かせる。

秋夜くんの取り巻き達もこんな気持ちなのだろうか。