知りたガール・博士ちゃんのサイエンス・ラボ

「あーん、相変わらずのイケメンね♡
 アタシ好みだわ。」

 うっとりとしたオメガの顏は、熱を加えたバターのように蕩けている。
 顏を歪めながらオメガの後ろからアンペールの横顔を遠巻きに眺めていたボルタは、無意識につぶやいた。

「まあ、否めない。」

 するとオメガが目を細めて薄い唇を尖らせた。

「あら、アンペールはヒトとして見れるのね。
 意外だわぁ。」

 「あ。」

 オメガに指摘されたボルタはハッとして顔を赤くした。

(確かにアンペールは蛇やカエルやたわしには見えないな。
 慣れ親しんだ助手だったからだろうか??
 うーむ…。)

 目を閉じて自己分析を始めたボルタを無視したオメガは、アンペールに向けて大きく両手を振った。

「キャー!アンペールちゃーん!!
 私はここよーッ!」

 名前を呼ばれてこちらを向いたアンペールは、オメガの後ろにいたボルタを認めて激しく動揺した。

「ボルタ博士⁉」

 噴水の向こう側から走り寄ってきたアンペールは、ボルタとオメガを交互に見比べた。

「博士が外に出てくるなんて…!
 こんなところでいったい何を?」

 オメガが悪い顏でアンペールに囁いた。

「デートよ。」

「なっ、デートだとぉ⁉」

 その場に飛び跳ねる勢いで驚くアンペールを横目に、ボルタが冷たく言い放つ。

「そんなわけないだろう。
 実証実験でフィールドワークの途中だ。」

「そ、そうですよね。」

 吐息をつくアンペールの腕をオメガが肘でこづいた。

「安心した?」

「どういう意味だ?」

「それが分からないくらいお子ちゃまなの?」

「バカな…。」

 アンペールがふくれ顏でそっぽを向いたその時、人混みの向こうから可愛らしい声が聞こえた。

「アンペールくーん!」

 ♢

 ボルタたちの前に降臨したのはまるでアイドルのようなロングヘア―の美女だった。
 白いミニスカのワンピースから伸びる美脚に目を奪われがちだが、それと対照的に童顔な顏は男心をくすぐる愛嬌がある。

 ボルタが正統派な美少女だとしても、この美女が横に居並ぶとその輝きは半減してしまうだろう。

「ぐっはぁ!」

 物理的な衝撃を受けたようにボルタが横に吹っ飛んだ。

「キラキラ女子を縁取る虹の輝きが、あますことなく目に刺さる!」

「常人に理解できないような攻撃を勝手に受けてんじゃないわよ!」

 ボルタとオメガの脇をスッと抜けて、美女がアンペールの腕に気安く手を回した。

「てへぺろ!
 二時間も遅刻しちゃったぁ。待ったよね?」

「いえ、今きたところです。」

 ボルタとオメガは目を合わせた。

(コイツ、しれっと嘘を吐いたぞ⁉)

 美女はそれを見抜いたように目を細めた。

「アンペールくんて、やさしすぃー♡」

「そんなことないです。」

 二人のラブラブな会話を盗聴したオメガは、ついに毒を吐き出した

「優しいというより、ムッツリよね!」

「そうだそうだ!」

 ようやくボルタとオメガの存在に気がついた美女がアンペールをあおいだ。

「こちらはお知り合いなの?」

「紹介させてください。」

 アンペールは歯に物がはさまったように、ぎこちなくボルタを紹介した。

「前に私が通っていた学園の、研究所の上司と同僚です。」

「新旧の上司が顏を合わせたわけねw」

 オメガをいちべつしたあと、ボルタを視界の正面に捉えた美女の顔色が驚くほど変化した。

「あー!
 アナタが噂の博士ち…失礼、ボルタ博士ね!」

 アンペールを見つけたときよりも興奮ぎみに頬を桃色に染めた美女は、鼻息荒くボルタに握手を求めた。

「こんなところで味覚研究のパイオニアに会えるなんて、光栄だわ!」

「どうも。」

 しっかり握手をして記念撮影をしたあと、美女は衝撃の自己紹介をした、

「私はレジスト。
 アンペールくんの現在の上司です。
 私たち、昨日つき合うことになって、今日が初デートなの~♡」

「はうっ!」

 突如としてボルタの脳裏に、耐えがたい痛みがズキューンと響いた。
 よろめきながらアンペールたちから離れたボルタは、木陰で胸を押さえた。

「い、痛い!」

 冷や汗が止まらない。
 突然の不調に見舞われたボルタは、木の幹に身体を預けながら、過呼吸対策にハンカチを口に押し当てた。

「fMRIを使わなくても解る。
 この感情は――妬みだ。」

 分析結果を出したものの、ボルタの感情は揺れ動き、動悸は激しくなっていた。

「このボクがアンペールに嫉妬をしているなんて…なんで⁉」