意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

王宮の回廊には、
出立の気配が静かに満ちていた。

マルクスは旅装を整え、
最後の報告のため、
アウレリオとラジワの前に立つ。

アウレリオは、
重々しく、しかし迷いなく告げた。
「国王陛下の承認も得た」
「万が一の事態が起これば――
ソラリス王国は、ビンセント殿下を支持する」

その言葉に、
マルクスの背筋がぴんと伸びる。
「……確かに。ソラリス王国のご意向、しかと承りました」
深い一礼。

それを見届けてから、
ラジワが一歩前に出る。
「マルクス」
声は柔らかいが、瞳は真剣だった。
「ビンセントに、くれぐれも気をつけるよう伝えて。兄は……本当に恐ろしい人なの。下手に動けば、命が危ないわ」
マルクスは、
一瞬だけ表情を曇らせ――
すぐに、静かに答えた。
「はい」

「殿下は今、ファティマ様を救うために動き回っておられます」

ラジワは思わず身を乗り出す。
「……動くって、どうやって?」

マルクスは、
少し言葉を選びながら続けた。
「ラジワ様は、妹姫のフィロメナ様を覚えておいでですか?」

フィロメナ――
ほとんど言葉を交わした記憶はない。
けれど。
(……とても美しい子だった)
確か、マルヴァリスの命で他国へ嫁がされたはず。

「フィロメナ……」
ラジワは記憶を辿るように呟く。
「あの、とても可愛らしい子よね?」

「はい」
マルクスは頷いた。