意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

一方、
月の女神ルナリアの神殿では。

朝露に濡れた石段の前で、
ラジワとマルクスが再び顔を合わせていた。

「……無事で、何よりです」
マルクスは、
心から安堵したように息を吐く。

「ええ。
女神様と、あなたのおかげね」
ラジワは微笑むが、
その瞳にはまだ緊張が残っている。

「本当は、すぐに王宮へお連れしたい」
マルクスは悔しそうに言った。
「ですが、夜明けと同時に
この周辺にも密偵が入り始めています。
今ここを動くのは、あまりにも危険だ」

ラジワは、
少し考えてから静かに頷いた。
「……分かったわ。では、アウレリオ様をここに」
ラジワは迷いなく言った。
「私は、何があっても神殿の中で待つ」

その言葉に、
マルクスは深く頷く。
「必ず、殿下をお連れします」

その瞬間。
ラジワはそっと自分の指を見つめ――
指輪を外した。
朝日にきらめく黄金のトパーズ。

それを、
両手でマルクスに差し出す。
「アウレリオ様に会えたら、これを渡して。
 これを見れば、必ず私だと分かるから」

マルクスは一瞬、息を呑む。
「……これは殿下からの贈り物で?」

「ええ」
ラジワは微笑む。
「だから、大丈夫。必ず、辿り着いてくれる」

マルクスは、
強く拳を胸に当てた。
「命に代えても、アウレリオ様にこれをお渡しします」

「いいえ」
ラジワははっきりと言った。
「あなたも生きて戻って。それが一番大事よ」

マルクスは一瞬言葉を詰まらせ。
そして――
「……承知しました」
踵を返し、朝霧の中へ走り出した。

ラジワは、
その背を見送りながら、
胸に手を当てた。
(アウレリオ様……どうか、ここまで来て)

神殿の鐘が朝を告げる。
再会まで、あと一歩。