意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

東の空が、
わずかに白み始めた頃。

神殿の石段の下で、
荒い足音が止まった。
「……この丘も一応探しとくか」

低い声。
鎧の擦れる音。
松明の火が揺れ、
数人の男たちが姿を現す。
――ドラゴニア帝国の密偵たちだ。

「王太子妃に似た女を見たという証言がある。
この辺りに逃げ込んだ可能性が高い」

別の男が鼻で笑う。
「こんな辺鄙なところに神殿があるとは。
女神だの何だの、関係あるまい」

石の門に近づき、
男は扉に手をかけた。

その瞬間。
「――お待ちなさい」
澄んだ、しかし揺るぎない声が、
夜明けの空気を切り裂いた。

神官が、
松明の光の中に進み出る。
白い法衣が、
月明かりに淡く輝いていた。
「ここは、月の女神ルナリアの神殿です」

密偵たちは顔を見合わせる。
「それがどうした」

神官は静かに告げる。
「いかなる理由があろうとも、
ルナリア様は男性の立ち入りをお赦しになりません」

一瞬の沈黙。

そして――
「は?」
嘲るような笑い。
「馬鹿を言うな。女一人を探しているだけだ」
「中を改めさせろ」

どんなにすごまれようとも、
神官は一歩も退かない。
「女神の掟です」
「ここより先へは、
女性であっても、神に仕える者以外は入れません」

密偵の一人が、
苛立ったように舌打ちする。
「ふざけるな。帝国の命だぞ」
「俺たちは太陽神も月の女神も信じちゃいねぇ」

その言葉に、
神官の目が、鋭く光った。
「この神域では、
皇帝であろうと、神の掟に従うのみ」
――空気が、凍る。