意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

神殿の扉を叩くと、
年配の女性神官が現れた。

ラジワは身分を明かし、
簡潔に事情を説明する。

追われていること。
今夜だけ、
月の女神の庇護を願いたいこと。

神官は、
静かに彼女の顔を見つめ――
やがて、深く頭を下げた。
「月の女神は、
立場弱き女性に慈悲深いお方です」

石造りの扉がゆっくりと開かれる。
「どうぞ、お入りください」

ラジワは、
振り返ってマルクスを見る。
「ありがとう。ここで大丈夫よ」

マルクスは、
神殿の敷地の手前で立ち止まった。
「……俺は、ここまでです」

彼は剣を外し、
神域を侵さぬ距離で腰を下ろす。
「神殿の前で警戒しつつ、一夜を明かします」
「何かあれば、すぐに呼んでください」

ラジワは、
胸の奥が温かくなるのを感じた。
「頼りにしてるわ、マルクス」

彼はわずかに微笑んだ。
「ではラジワ様、また朝にお会いしましょう」

ラジワとマルクスがようやく一息ついたその頃。
ソラリス王都では、
灯りが消えることはなかった。

「まだ見つからないのか!」
夜通し響く、
アウレリオの怒号。

街道も、丘も、森も――
捜索は続いていた。

だが、そんな周囲の喧騒をよそに、
月の女神の神殿は静まり返っていた。
白い石の回廊に差し込む月光。
香の匂い。
祈りの気配。

ラジワは、
胸に手を当て、そっと目を閉じる。
(今夜だけでいい……)
(どうかこの夜を越えさせて)

神殿の外では、
マルクスが月を仰ぎ、
剣の柄に手を置いたまま、
動かずに夜を見張っていた。

不安、焦燥、祈り――
様々な思いととともに、
夜は静かに、更けていく。