意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

――逃亡の夜。

馬を降りたマルクスが言った。
「……ソラリスの王宮へは、明日お送りします。
ですが今夜は、とにかく逃げ続けなければなりません。追っ手がどこに紛れているか分かりませんから」

月明かりの下、
彼は周囲を警戒しながら続ける。
「どこか安全に夜を越せる場所があれば別ですが……
ラジワ様、心当たりはありませんか?」

ラジワはしばし考え――
ふと、顔を上げた。
「……あるわ」

ラジワが示したのは、
王都から少し離れたなだらかな丘の上。
そこに建つのは、
月の女神ルナリアを祀る神殿である。

太陽神ソラールの妹にして、
夜と沈黙を司る女神。
――そして、
ここは男子禁制の神域。
(月の女神は男嫌い……だものね)

ラジワは小さく息を整えた。
「ここなら……
帝国の密偵も踏み込めない」

マルクスは一瞬、
驚いたように目を見開き、
すぐに理解したように頷いた。
「……確かに。神殿とは盲点ですね」