意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

一方、その頃
――連れ去られた“姫”は?


馬は、街中を全速力で駆けていた。
風が、ラジワの頬を打つ。

彼女の意識は意外なほど冷静だった。

(……妙ね)
もし本当に帝国の密偵なら、
ここまで乱暴に、
しかも単独で行動するだろうか。

男の背中は、大きく、安定している。
馬の扱いにも熟練しているようだ。

(この走り方……)
ふと、
幼い頃の記憶が蘇る。
確信を得て、ラジワは微笑んだ。

「……久しぶりね、マルクス」

その声に、
男の肩がぴくりと動いた。
「やはり気付かれましたか……流石です、ラジワ様」

振り返らず、
だが確かな安堵を滲ませる声。
「間に合って良かった。本当に、間一髪でしたよ」

ラジワは小さく息を吐いた。
「やっぱり……あなたがいるということは、ビンセントの差し金ね」

「ええ」
マルクスは短く答える。
「皇帝陛下の密偵が、貴女を捕らえるために動いています。今日の事故は、完全に“計画されたもの”でした」
ラジワは深い溜息を吐き、
彼の背に額を預ける。

安心を得たことで恐怖が遅れてやってきた。
(……もう少し遅かったら。私は本当に兄に奪われていたのね)
「マルクス……ありがとう」

彼はわずかに首を振る。
「私は命令に従っただけです」
そして付け加えた。
「それに……殿下が悲しむ顔は、二度と見たくありませんから。ラジワ様だけでも、絶対にお救いせよと殿下からのご命令でした。」

ラジワは目を閉じる。
(アウレリオ……私は無事よ)

彼女はまだ知らない。
今この瞬間、
太陽の王太子が、
正気を失う寸前で彼女を捜していることを。