意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

――金と血の匂いがする祝祭

帝国の大聖堂は、
眩いほどの金で満ちていた。
天井から垂れ下がる無数の紋章旗。
磨き上げられた大理石の床。
太陽すら反射しているかのような、
過剰な装飾。

だがその華やかさは、
祝福というより誇示に近かった。

(……変わったわ)
ラジワは、玉座を見上げながら思う。
玉座に座す男――皇帝クレオール。
かつては、兄だった。
理知的で、物静かで、
少なくとも表向きは品格を保っていた。
だが今、
彼の背後には
皇帝の象徴たる金の円環と、
巨大な帝国紋章が揺らめいている。
その存在が、
彼の人間性を押し潰したかのようだった。

視線は冷たく、
口元には、わずかな嘲りを含んだ笑み。
(……皇帝になった、というより
皇帝という権力に“寄生された”みたい)
隣に立つアウレリオが、
わずかに身を硬くするのが分かる。
彼もまた、
この空気の異様さを感じ取っていた。

儀式の合間、
ラジワは必死に人の流れを追う。
「……姉さま……どこにいるの?」

ファティマは確かにいた。
確かに見えた。
淡い色のドレス。
以前よりもやつれた横顔。
隣にいる太った男が
おそらくドノヴァン侯だろう。

ファティマの視線は伏せられ、
周囲には不自然なほど人が配置されている。
(……不自然だわ……)

声をかけようと一歩踏み出した瞬間、
侍従が巧妙に進路を塞ぐ。
「恐れ入ります、殿下。
次の式次第の準備がございますので」

気づけば、
ファティマの姿は人波に紛れ、
二度と見えなくなっていた。
(会わせる気が、最初からないみたい……)
胸に冷たい不安が沈む。