意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

夜の庭園は、
昼とはまるで別の顔を見せていた。
白い回廊の影に咲く花々は、
月光を受けて淡く光り、
噴水の水音だけが、
静かに空気を揺らしている。

ラジワはフードを深くかぶり、
足早に歩いた。
ここは宮廷の奥、
公式の場ではない場所。

だからこそ、
心が少しだけ自由になれる。

「ラジワ」
名を呼ばれて振り向くと、
セリオ・アルバート・ディ・クラウゼンが立っていた。

昼間とは違い、
堅い官服ではなく、
深い紺色の外套を羽織った姿は、
ただの一人の青年に見える。

「待たせた?」
「いいえ。むしろ、早すぎたくらいです」
そう言って微笑む彼に、
ラジワは小さく息を吐いた。
(この人の前では、呼吸が楽になる)

二人は並んで歩きながら、
あたりさわりのない話を交わした。
帝国の政務、最近の属国の動き、
宮廷で流行っている噂話。

けれどそれらはすべて、
本題に至るまでの、
慎重な助走に過ぎない。

噴水の前で足を止めたとき、
セリオがふいに口を開いた。
「今日、陛下から――」

ラジワの心臓が小さく跳ねる。

「書記官としての働きを評価すると、
 そう言っていただけました」
「それは……すごいわ」
「ええ。でも、それだけではありません」
彼は一瞬、視線を逸らし、
それから、まっすぐラジワを見つめた。

「来年の春。陛下が外遊から戻られたあと、
 正式に、お願いするつもりです」

夜風が、ラジワの髪を揺らす。
「私を……?」
「あなたを、です」
逃げ場のないほど、静かな断言だった。