その日の夕刻、
ラジワは皇帝の執務棟の奥にある
小さな書記官室を訪れた。
扉を叩く前に、一瞬だけ呼吸を整える。
――ここでは、皇女でいなくていい。
そう自分に言い聞かせてから、
扉を開けた。
「ラジワ」
柔らかな声で名を呼んだのは、
セリオ・アルバート・ディ・クラウゼン。
帝国公爵家の嫡男にして、
皇帝直属の書記官。
年は同じ。
肩書きも、立場も、
決して釣り合ってはいないはずなのに、
彼の前では、
不思議と背筋を伸ばす必要がなかった。
「今日は少し遅いですね」
「兄と話していたの。……疲れたわ」
そう言って微笑むと、
セリオは書類を置き、
静かに椅子を引いた。
「お茶を用意します。砂糖は、控えめで?」
「覚えていたのね」
「忘れるはずがありません」
その言葉に、
胸の奥がきゅっと締めつけられる。
この人は、
ラジワを「皇女」としてではなく、
ラジワ個人として見てくれる
唯一の存在だった。
ラジワは皇帝の執務棟の奥にある
小さな書記官室を訪れた。
扉を叩く前に、一瞬だけ呼吸を整える。
――ここでは、皇女でいなくていい。
そう自分に言い聞かせてから、
扉を開けた。
「ラジワ」
柔らかな声で名を呼んだのは、
セリオ・アルバート・ディ・クラウゼン。
帝国公爵家の嫡男にして、
皇帝直属の書記官。
年は同じ。
肩書きも、立場も、
決して釣り合ってはいないはずなのに、
彼の前では、
不思議と背筋を伸ばす必要がなかった。
「今日は少し遅いですね」
「兄と話していたの。……疲れたわ」
そう言って微笑むと、
セリオは書類を置き、
静かに椅子を引いた。
「お茶を用意します。砂糖は、控えめで?」
「覚えていたのね」
「忘れるはずがありません」
その言葉に、
胸の奥がきゅっと締めつけられる。
この人は、
ラジワを「皇女」としてではなく、
ラジワ個人として見てくれる
唯一の存在だった。



