意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

婚姻証明書への署名が終わり、
執務室を出た直後。

ラジワは我慢できずに足を止めた。
「……待って」

アウレリオが振り返る。

「さっきの、あれ」
声が少しだけ尖る。

「“未完成”って、どういう意味?」

回廊には、人払いがされている。
二人きり。

ラジワは真正面から彼を睨みつけた。
「書類にはサインした。
 私はもう、あなたの妻でしょう?」
――それとも何?
まだ足りないとでも?
言葉にしない苛立ちが視線に滲む。

アウレリオは少しだけ間を置いた。
「ソラリス王国は、
 太陽神ソラールを信仰している」
淡々とした説明。
だがその声は誠実だった。
「王権も、婚姻も、神の前で誓って初めて“完成”する」

ラジワは眉をひそめる。
「じゃあ……さっきのは?」
「国家同士の契約だ」
はっきりとした答え。

「つまり、法と政治の上では、我々は夫婦だ」

一瞬、
ラジワの胸が締め付けられる。
――やっぱり、駒じゃない。
そう思いかけた、その直後。

「だが」
アウレリオは続けた。
「太陽神の祝福を受けていない以上、
 私はまだ、貴女を“正式な妻”とは呼ばない」

ラジワは言葉を失う。
「……それ、どう違うの?」
問いかけは、少し弱くなっていた。