意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

次に、
アウレリオが前に出る。

彼は表情を変えず、
同じように署名した。
一筆で、迷いなく。

だが、
ラジワは気づいていた。
彼の指先が、
わずかに強張っていたことを。

「これにて、両国の婚姻は成立いたしました」
法務官の声が響く。

その言葉に誰も拍手しない。
誰も祝福しない。

沈黙の中、
アウレリオが口を開いた。
「一点、確認させていただきたい」
場の空気がわずかに張り詰める。
「ソラリス王国では、
 太陽神の祝福なき婚姻は、未だ“完成”とはみなされません」

帝国使節の眉がかすかに動く。
「つまり?」
「本日は、政治的・法的な結びのみ、ということです」

アウレリオは静かに続けた。
「正式な婚姻儀式は、
 太陽神に相応しい晴天の日を選びます」

ラジワは思わず彼を見た。
(……何、それ)

それは、
自分を縛る言葉であると同時に、
どこか救いのようにも聞こえた。

帝国使節は短く頷く。
「承知しました。それがソラリスの慣習であれば」

こうして。
祝福のない結婚は無事に成立した。
ラジワは書類を見下ろしながら思う。
(太陽の国なのに……今日の太陽は、私を見ていないのね)

その背後で、
アウレリオは何も言わず、
ただ静かに立っていた。
――彼だけが、
この婚姻が“未完成”であることを、
誰よりも強く意識していた。