意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

「……そんな言い方」
声が震える。

「私たち、約束したでしょう……?」

夜の庭園。
握られた手。
未来の話。

それらが、一瞬で遠くなる。

セリオは目を伏せた。

「覚えています」
短くそう言った。

「ですが――」

顔を上げたその瞳には、
怒りも、悲しみも、
表に出てはいなかった。

「私は、帝国の臣です。皇帝陛下の意向には逆らえません」

その一言がすべてだった。

「セリオ……」

ラジワは必死に言葉を探した。
「あなたは、私を“駒”にしないと言ってくれた」

「ええ」

「それなのに……」

「だからこそ、です」
彼の声は穏やかだった。

「これ以上、あなたを危険に晒すことはできません」

ラジワは拳を強く握りしめる。

(諦めないでほしい)
そう叫びたかった。

でも同時に、
彼が反逆を選ばない理由も、
痛いほど理解できてしまう。

それが彼という人間だったから。

「ラジワ皇女」
セリオは、一歩下がり、
深く、丁寧に頭を下げた。

「どうか――お幸せに」

その瞬間。
何かが、音を立てて壊れた。

「……それだけ?」
ラジワは泣き笑いのような顔で言った。

「引き止めもしないの?怒りもしないの?」

セリオは少しだけ唇を噛んだ。
それが、彼の精一杯だった。
「……いつまでも」
顔を上げ、
まっすぐにラジワを見つめる。
「貴女の幸せを、祈っています」

優しさ。
誠実さ。
そして、決定的な距離。

ラジワは、その場に立ち尽くした。
(私は……)
守られなかったのではない。
守られるより先に、
手放されたのだ。

執務室を出た廊下で、
ラジワは初めて、
声を殺して泣いた。

諦めたくなかった。

でも、彼は戦わなかった。

それが正しくて、
それが現実で、
だからこそ、残酷だった。