意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

セリオの執務室は、
いつもと変わらなかった。
整えられた書類。
磨かれた机。
窓辺に置かれた小さな砂時計。

――あまりにも、平穏で。
そのことが、
ラジワの胸を強く締めつけた。

「……セリオ」
名を呼ぶ声が掠れる。

彼は顔を上げ、
一瞬だけ、
ほんの一瞬だけ表情を揺らした。
だがそれは、すぐに消えた。

「お越しになると思っていました」
静かな声。
覚悟を含んだ声。

(もう、知っているのね)
ラジワは悟った。

「皇帝陛下から命令が下ったわ」
先に口を開いたのはラジワだった。
「ソラリス王国王太子へ、嫁げと……」

言葉にした瞬間、
胸の奥がひび割れる。
「嫌よ。こんなの、受け入れられない……」

縋るように、
セリオに一歩近づく。
「まだ、何か方法があるはずよね?
 陛下に、もう一度――」

その言葉を、
セリオは静かに遮った。
「ラジワ皇女」

その呼び方に、
彼女ははっとした。

「陛下のご命令とあれば、
 もう、どうすることもできません」

あまりにも、冷静で。
あまりにも、正しかった。