意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

その瞬間。

「ラジワ」
名を呼んだのはクレオールだった。
低く、冷たい声。

「感情を抑えろ。お前の気持ちは関係ない」

「兄上……」

「これは、最善の策だ」

彼は一歩前に出た。
「ソラリス王国は、今も帝国に好意的だ。
 だが、それは永遠ではない」
「だから、私を――」
「お前は、適任だ」

容赦のない言葉。

「血筋、知性、外交的価値。すべて揃っている」
ラジワの視界が白くなる。

「……それだけ?」
「それで十分だ。他に理由が必要か?」

兄の目には妹ではなく、
ただの駒が映っていた。

その場からどうやって退いたのか、
ラジワは覚えていなかった。
気づけば、
ファティマの私室の前に立っていた。

扉を叩く手が震える。

「お姉様……!」
返事を待たず、扉を開ける。

「ラジワ?」
驚いた顔のファティマに、
ラジワは抑えていたものをすべてぶつけた。

「どうして!?どうして、私なの!?」

「ラジワ、落ち着いて――」

「陛下は、お姉様には何も言わないのに!」

声が涙で歪む。
「私は、最初から差し出す前提なのね!?」

ファティマの表情が曇った。
「……それは、違うわ」

「違わない!」
ラジワは、叫んでいた。
「お姉様は、いつも特別で、いつも選ばれて!」

胸の奥に溜め込んでいたものが、
一気に溢れ出す。
「ずるいわ……!」

沈黙。
ファティマはすぐには答えなかった。