意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

城門を出ていく馬車の列が、
ゆっくりと遠ざかっていく。
その先頭に揺れる旗印を、
ラジワは最後まで見送っていた。

新皇帝ビンセント。
かつて守るべき弟だった存在は、
今や帝国を背負う男となり、
振り返ることなく、
真っ直ぐ前を見据えて進んでいく。

「……行ったわね」
呟くラジワの肩に、
そっと重なる温もり。
アウレリオが自然な仕草で、
彼女を引き寄せていた。

「これでようやく、平和になるのね」
風に混じる、安堵の息。
「あぁ。嵐は……やっと去ったな」
そう答える声は低く、
けれど確かな確信を帯びていた。

もう、
追われることも、
奪われることもない。

しばらく沈黙が流れ、
ラジワはアウレリオの腕の中で、
少しだけ身じろぎする。
「ねぇ、アウレリオ」
「ん?」
「私……お姉様のいるアズールティアに行きたいわ」
アウレリオは何も言わず、
続きを促す。
「ビンセントの話を聞いても、どうしても想像できなくて。本当に幸せなのか、この目で確かめたいの」

空を仰ぐラジワの瞳は、
もう怯えを映していなかった。
ただ家族を想う、穏やかな光だけがある。

アウレリオは微笑み、
迷いなく答えた。
「あぁ、行けばいいさ」
彼女のこめかみに、
軽く口づけを落としながら。

「もう何にも、怯える必要はない。お前は――俺の隣にいる限り、自由だ」
ラジワは小さく笑って、
彼の胸に額を預けた。

遠くで、鐘の音が鳴る。
新しい時代の始まりを告げる音。

失われたものも、傷ついた記憶も、
確かにあった。
けれどそれらすべてを越えて――
彼女たちは今、
未来を選び取ったのだ。

寄り添う二人の背に、
柔らかな光が差し込む。
物語は静かに、
そして確かに幸福の中で幕を閉じた。