意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

「……本当なの?」
ラジワはセリオの執務室でそう呟いた。

彼の机の上には山のような書類。
そのどれもが、
帝国の不安定さを物語っている。
「事実です」
セリオの声は低く、疲れていた。

「属国の反応が、想定以上に早い。
 皇太子の失脚は、彼らにとって“帝国が揺らいでいる証拠”です」

ラジワは、指先を握りしめた。
(そんな……)

宮廷会議は連日のように開かれた。
外交、軍事、財政。
どの議題にも共通する結論があった。
――このままでは、帝国は弱体化する。

そして、誰かが言ったのだ。
「ソラリス王国との同盟を、より強固なものにすべきでは?」

その瞬間、
ラジワの胸の奥が嫌な音を立てた。

会議後、
兄クレオールが呼び止めた。
「ラジワ」

「……何?」

回廊の窓から差し込む光が、
彼の顔に冷たい影を落としている。

「帝国は今、選択を迫られている」
「それは分かっているわ」
「なら話は早い」

クレオールは淡々と言った。
「ソラリス王国は最大の友好国だ。
 彼らが帝国から離れれば、属国は一斉に反旗を翻す」

ラジワは兄を見つめた。
その瞳に、情はない。
あるのは、計算だけ。

「……まさか」
喉が、ひくりと鳴る。

「お前が考えている通りだ」

クレオールは否定しなかった。
「婚姻による同盟強化。
 それが最も確実で、最も早い」

「でも、それは――」

「感情論だ」
きっぱりと切り捨てられる。

「帝国を守るためには、誰かが犠牲になる必要がある」

ラジワの視界がわずかに揺れた。
「……それが、私?」

クレオールは、一瞬も迷わなかった。
「そうだ」