意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

――「兄上は、ついにここまで堕ちたか」

その夜。
ビンセントは、
信頼する部下からの報告を受け、
静かに目を閉じた。
「……やはり、こうなったか」

皇弟ビンセント暗殺計画。
日時は未定だが近々決行される――。

予想していただけに恐怖はなかった。
あるのは、深い失望だけ。
「兄上は……皇帝としてではなく、人として終わった」

ビンセントは即座に決断する。
「ソラリスの駐ドラゴニア大使に、保護を要請する」

それは、皇族としては異例の行動。
だが今は、
自身の命を守ることが最優先だった。

大使館はビンセントの要請に即応した。
――ソラリス王国が、
ビンセント皇子を保護した。

その一報は、
瞬く間に帝都を駆け巡る。

クレオールにとって最悪だったのは、
情報が駆け巡る、
その“速さ”だった。

暗殺計画の存在。
皇帝の命令であること。
そして、
皇弟が他国の庇護を求めた事実。

それらが一つの線で結ばれた瞬間――
帝国中が理解してしまった。
「皇帝は、自分の弟を殺そうとした」
「恐怖政治の次は、血で王座を守るつもりか」

貴族たちは一斉に距離を取った。
官僚たちは命令を遅らせ、
文書に判を押さなくなった。
民衆はもはや囁きもしない。
――沈黙。
それは完全な拒絶だった。

クレオールは玉座に座ったまま、
一人取り残される。
「……なぜだ。私は、帝国のために……」

だが、
答える者はいない。
恐怖で築いた帝国は、
恐怖と共に、
音もなく崩れ落ちていったのだった。