意地っ張りな私が策士な王太子に囚われて

異変は音もなく始まった。

朝の謁見を終えた皇帝が、
珍しく不機嫌な表情のまま玉座を立った――

その日から、
宮廷の空気は目に見えて変わった。

回廊を行き交う官僚たちは声を潜め、
噂話は扉の陰で交わされる。
「聞いたか……?」
「皇太子殿下が……」
「ユリアナ皇女も同様に……」

ラジワは思わず立ち止まった。
彼らが囁くその名を、
聞き逃すはずがなかった。
――マルヴァリス皇太子。
彼は今、
フィオルガルデ連邦に遠征中のはずだ。
何かあったのだろうか。

数日後、事実は公にされた。
皇太子マルヴァリスは
フィオルガルデ連邦およびヴァリニア王国に
完全敗北の末、安否不明。

皇帝は皇太子の身柄を捜索することなく、
彼が持っていた身位と
すべての権限を剥奪した。

玉座の間に響いた宣告の声は、
冷たく、容赦がなかった。

ざわめき。
抑えきれない動揺。

帝国の象徴だったはずの皇太子は、
その日を境に、
歴史から消されたのだ。