【完結】妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜

 ――三日後の正午前。
 私は大聖堂の魔術陣の中心に立っていた。近くには元家族の三人、エルマーさんと警備隊二人、そしてアダン様もいる。

 最初は同行に反対された私だったが、セファーさんが「デューデ様が行かせるべきだって言ってた」との言葉を告げられ、折れてくれた。だが、本当に私の同行が気がかりなようで、彼の手は魔術陣に入ってから、私の腰が定位置となっている。

 すると大聖堂に正午の鐘が鳴り響いた。
 それと同時に、私たちの乗った魔術陣が光り始め……光が収まった頃、目を開けるとそこは見覚えのあるお城が遠くに見えた。そして、記憶にある人々も……。

 一番手前にいる方は、教皇猊下だ。彼は私の姿を見て、目を見張っていた。
 何度も目を擦って私を見ているので、生きていることが信じられないのかもしれない。

 皇帝陛下も私の姿を見て、目を丸くしていたが……女神様の神託を思い出したのだろう。陛下は一歩前に足を踏み出してから、礼をとった。

「この度は……我が国の者が貴国に多大なる無礼を働いた、と女神デューデ様にお聞きした。この国を統べる者として、誠に申し訳なく思う」

 教皇猊下を含め、その場にいる全員が頭を下げる。それを見て、アダン様は王国側の者たちに声をかけた。
 
「顔をあげよ。今後、再発することがないよう徹底を頼む」
「……感謝する」

 アダン様の言葉に皆が顔を上げる。そして皇帝陛下たちの後ろにいた近衛兵たちが、エルマーさんたちから三人を引き取った。
 彼らは暴れている三人を地面に寝かせて押さえつける。扱い方は犯罪者のそれだ。
 
 しばらくすると、近衛兵から困惑の空気が漂ってくる。それもそのはず、彼らは喋ろうとしているのに、声が聞こえないからだ。
 
「そうだ、すまない。あまりにもうるさかったので、言葉を封じていた」

 アダン様が指を鳴らすと、三人の騒ぎ声が聞こえ始めた。
 私を罵る声、皇帝陛下に媚びる声、自分を擁護する声……様々な言葉が宙を飛び交うが――

「静かにしろ。この場で首を刎ねてもいいのだが?」
「「「ヒッ!」」」

 陛下の一言で、三人は一斉に口を閉じた。
 猊下は彼らを睨み続けている。彼らは突き刺さる視線を浴びて、身をすくめている。

「この者たちは、こちらで処分する。貴国の静謐をまた乱すことがないようにな」
「よろしく頼む」
「必ず」

 アダン様と陛下のやり取りが終わる。
 それを見計らったかのように、魔術陣が淡く光り始めた。もうネレイダの街へと帰国するのだろう、私が考えていたその時。

「エーヴァ様」

 目の前にいた猊下が、私に声を掛けてくる。

「大変申し訳ございませんでした。今回の件は私の不徳の致すところ……儀式を完全に理解していなかった私の落ち度があります。あなたに許される、とは思っておりません……ですが、一目お元気な姿を見られて、嬉しく思いました」
「……結果論ではありますが、私は泉に身を投げて良かったと思っております。願わくは、次の犠牲者が出ないよう……後世にお伝えください」
「承知いたしました……」

 礼をとる猊下の地面に、ぽつぽつと水が染み込んでいく。
 それが涙だと気がついたのは、魔術陣の光が私たちを呑み込んだ後のことだった。