人間なんてさ

人間は、生まれた瞬間からもう手遅れなんだって知ってる?

わたしたち人間は2歳頃になると既に、恐れ、怒り、不快という感情を覚える。

そして5歳くらいになると、妬み、羨ましさ、失望。そんな感情が生まれてくる。

まだ小さい子供なのに、そんな汚い感情を持っていることが不思議で堪らない。

5歳にもなれば、あの子が持っているおもちゃを壊してしまいたいと願う。奪いたいと思ってしまう。

自分がたったひとりの人間にすら愛されないことへの絶望を知る。

それを大人は『成長』と呼ぶけれど、実際はただ、魂が薄汚く濁っていく工程に過ぎないんだ。

不愉快も、嫌いも、許せないって思うことも、全部幼い頃から身についてしまう。

その感情が、×人に繋がることだってあるのにね。

人間が母親の体内から抜け出して、外の空気に触れた瞬間。

その時にはもう、手遅れなんだ。

何故なら、その空気は濁った水のように汚いから。

人間のたくさんの感情が交差して、色が混ざった空気。

生まれた瞬間は真っ白だなんて嘘だ。

産声を上げたその瞬間に、肺の中にはもう、他人の羨望や憎悪が混じった空気が流れ込んでいる。

だからわたしは、呼吸を覚える前に戻りたい。

何も感じず、何も望まず、ただ静かな無の中にいた、あの場所へ。