「先生、冗談が過ぎますよ」
そう言おうと思ったけれど、まんざらでもない自分に気づいて、結局口にできなかった。
消毒が終わり、大きめの絆創膏を貼りながら、先生が静かに口を開く。
「青春、大切にしてね。大人になったら、もう戻ってこないから」
「…でも、大人になったらなったで、きっと新しい景色も見られるんじゃないですか?」
「…そうね。でも、やっぱり、あの頃の夏が恋しいのよ。あんなに全てがキラキラしていた夏は、もう取り戻せない」
その言葉を聞きながら、私の胸にも、かすかに、だけど確かな切なさが残った。
大人になったら見られるものもあるけれど、あの夏の光は、きっと二度と同じには輝かないのだと。
「だからね、勉強も大事だけど…キラキラしているその景色の中に、ちゃんと自分自身も、忘れずに入れてほしいのよ」
窓の外では、夏の光が校庭の砂を黄金色に照らしている。
吹き抜ける風に揺れる木々の葉も、遠くで笑い声が弾む声も、全部がキラキラと胸に映り込む。
でも、私はまだそこへ、入れてはいない気がする。



