晴海は迷うことなく教室に入ってきて、自分の席に腰を下ろす。
カバンを机に引っかけながら、何でもないみたいに言った。
「手伝うよ」
差し出された手に、ほんの一瞬、時間が止まる。
「……申し訳ないよ」
そう返すと、晴海は小さく笑った。
「ふたりでやったほうが、早いだろ」
机の上にホッチキスがひとつしかないことに気づいて、彼は何も言わずにプリントを揃えはじめる。
優しいね、晴海。
なにを言うわけでもなく、またパチン、パチンとホッチキスの音が鳴り響く。
でも、さっきと違うのは、隣には晴海がいて、それに反応するように私の心臓はうるさい。
ふいに、晴海が顔を上げる。
「あのさ」
その一言で、空気が変わる。
「夏井って、人を好きになったことある?」
パチン。
ホッチキスの音が、やけに強く鳴った。
「……えっと……え?」
予想していなかった問いに、間の抜けた声が出る。
晴海のほうを見ると、何事もなかったみたいな顔で、今日の朝ごはんは何だった?とでも聞くみたいに、手を止めずにプリントを揃えている。



