バタフライ エフェクト

小松さんの足が、ある部屋の前で止まった。

ドアの表面の上部に、“304号室 林堂 香菜子”の文字が見える。



「林堂さんに何かおかしなことをしたら、あんた達を許さないからね」
と、小松さんは言い、ドアをノックした。



「開けるよ」



小松さんが返事を待たずに引き戸を開ける。



「林堂さん、お客様だよ。女の子ふたり」



小松さんは部屋には入ろうとしない。

私達に「さぁ、入りな」と声をかけ、彼女はまた廊下を歩いてどこかへ消えた。



「し、失礼致します……」
と、梨々愛とふたり、声が揃った。



「誰?」



女性の声がした。

林堂 香菜子だ。

彼女はベッドに横たわったまま、こちらをじっと睨んでいた。



「沢渡 紫です」

「村山 梨々愛です」



私達が名乗ると、
「知らない、帰って」
と、厳しい声で言う。



私は林堂 香菜子に気づかれないように、彼女を観察した。

五十六歳だと計算したけれど、外見はもっと年上に見える。

ベッドに横たわり、力なく「しっ、しっ」と手を払っているその動作も、頼りなく思えた。