【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~戦闘力ゼロの追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と送る甘々ライフ~

 城門が近づくにつれ、空気が変わっていった。

 温度が下がったようにすら感じられる。

 死の気配が、風に乗って漂ってくるのだ。

 ゴゴゴゴゴ……。

 遠雷のような地鳴りが、足元から伝わってくる。

 それは、三万の魔物が大地を踏み砕く音だった。

 無数の足が、地面を蹴っている。

 無数の爪が、土を抉っている。

 その振動が、こんな遠くにまで伝わってくるのだ。

 グォォォォォ……。

 理性を失った獣たちの咆哮が、死の風となって吹き寄せてくる。

 肌がヒリヒリするような、不吉な風。

 その風に乗って、血の匂いが漂ってくる。

 門をくぐってくる避難民たちの顔は、みんな絶望に染まっていた。

 血まみれの農夫が、虚ろな目で歩いてくる。

 無傷で生き残ってしまった。

 家族を失い、仲間を失い、それでも生き残ってしまった。

「村が……」

 虚ろな声で、呟く。

「一瞬で、消えた……」

 心が壊れかけ、その目には何も映っていなかった。

 子供を抱いた母親が、涙を流しながら走ってくる。

 その子供はぐったりとしていた。

「もうダメよ……この街も、すぐに出ないと……!」

 悲鳴のような声。

 その目には、狂気に近い恐怖が宿っていた。

 老人が、杖にすがりながら歩いてくる。

 一歩ごとに、膝が震えている。

 でも、彼の目には、恐怖ではなく、諦めが浮かんでいた。

「二十年前と、同じだ……。また、全てが灰になる……」

 呟く声は、枯れていた。

 もう、これ以上逃げる気力も残っていない。

 誰もが怯えていた。

 この街もやがて魔物の胃袋に消えることを。

 三万の魔物。

 千の牙。

 万の爪。

 凄まじき暴力の津波が、全てを飲み込もうと迫っている。

 普通なら足がすくみ、逃げ出すことしか考えない。

 でも――。

 レオンの翠色の瞳には、迷いがなかった。

 むしろ、その輝きは増していく。

 恐怖を超えた先にある、静かな覚悟の光。

「行くぞ」

 城門をくぐりながら静かに、しかし雷鳴のような力強さで告げた。

 振り返れば四人の仲間が、そこにいる。

 エリナ、ミーシャ、ルナ、シエル。

 全員の顔に、同じ覚悟が宿っている。

「僕たちの物語を、始めよう」

「行こう!」

 エリナが、剣の柄をぎゅっと握りしめた。

 その顔には、戦士の笑みが浮かんでいる。

 五年間、復讐のために生きてきた。

 でも今は違う。

 仲間を守るため、街を守るために戦う。

 その決意が、彼女を強くしていた。

「伝説を作るわよー!」

 ルナが、杖を天に掲げた。

「やってやるんだから!」

 シエルがぎゅっとこぶしを握り、碧眼を輝かせた。

「畜生たち、覚悟してなさい……うふふ」

 三万の魔物を「畜生」呼ばわりする大胆さ。

 でも、その瞳は期待に満ちていた。

 とてつもない試練。でもこの仲間となら、新たな景色が見られるに違いない。

 五人の足音が、石畳に響く。

 逃げ惑う人々の流れに逆らって、死地へと向かう若者たち。

 その姿は、小さかった。

 装備はピカピカの新品で、まだ未使用だ。

 経験も実績もない。

 どこから見ても、ただのド素人冒険者だ。

 でも――。

 朝日の黄金の光の中で、五人は祝福されるように輝いていた。

 避難民たちが、ふと足を止めた。

「あの子たち……」

 誰かが、呟いた。

「まさか、砦へ向かうのか……?」

 別の誰かが、驚きの声を上げる。

「正気か……?」

 みんなが、振り返っていた。

 逃げる足を止めて、五人の背中を見つめていた。

 そして、静かに手を合わせた。

 神に祈るように。

 奇跡を願うように。

 門番の老兵が、震える手を胸に当てた。

 長年、この門を守ってきた男。

 厳しい戦場へ数えきれないほどの冒険者を見送り、その多くが帰らなかった。

 でも、こんな若者たちは初めてだった。

 死地に向かうというのに、笑っている。

 恐怖に怯えるどころか、輝いている。

「……ご武運を」

 涙声だった。

 老兵の目から、涙が零れ落ちる。

 この若者たちが、帰ってくることを。

 奇跡を起こしてくれることを。

 心の底から、祈っていた。


       ◇


 振り返りもせず、前だけを見て、ただ真っ直ぐに進んでいく五人。

 その背中を見送る人々は、後にこう語り継いだ。

       ――

「あの朝、私たちは見たのよ」

 美しい湖畔の公園のベンチで白髪の老婆が、膝の上の孫娘に語りかける。

 皺だらけの顔に、懐かしそうな微笑みが浮かんでいた。

「五人の若者が、朝日に包まれていたの」

 孫は、大きな目を見開いて聞いている。

 この話を聞くのは、もう何度目だろう。

 でも、何度聞いても飽きない。

 おばあちゃんの目が、いつもキラキラ輝くから。

「死の大地へ向かうというのに、まるでお祭りにでも行くかのように笑っていたわ」

 老婆の声が、少し震える。

「怖くないはずがないのに。死ぬかもしれないのに。それでも、笑っていたの」

 老婆は、湖面を見つめた。

 あの日と同じ朝日がキラキラと煌めいている。

 孫が、首を傾げる。

「なんで笑ってたの?」

「女神様に導かれていた……のかしらね? おばあちゃんにも、分からないわ」

 老婆の瞳に、あの日の光景が蘇る。

「彼らは、輝いていたの」

 声が、震えた。

「まるで、光そのものになろうとしているかのように」

 老婆は恍惚とした表情で、青空に向かって遥か高く屹立する純白の塔を見上げた。

      ――