窓の外では、逃げ惑う人々の声が聞こえる。
子供の泣き声。
母親の叫び声。
荷馬車の車輪が急いで石畳を転がる音。
街は、混乱の渦中にあった。
その時、レオンが笑った。
「ははっ!」
明るい、吹っ切れたような笑い声。
「十分です。ありがとうございます! すぐに準備をします!」
「待て……」
ギルドマスターが、立ち上がった。
「君たち、本当に……」
その目に、涙が浮かんでいた。
長年ギルドを預かってきた男。
数えきれないほどの冒険者を送り出し、少なくない数を失ってきた男。
でも、こんな感情を見せるのは、初めてだった。
「何を言ってるんですか」
レオンが、ぎゅっと拳を握る。
「祝賀会の準備、お願いしますよ?」
「……は?」
「凱旋するんですから」
「が、凱旋……?」
ギルドマスターは、目を大きく見開いた。
この少年は、何を言っているのか。
三万の魔物を相手に、凱旋?
正気の沙汰ではない。
「そんなに驚かないでください」
レオンの翠色の瞳が、輝いていた。
「僕らには、秘策があるんです」
「秘策……?」
「そう。三万の魔物たちを、一掃する秘策が」
その言葉に、ギルドマスターは絶句した。
(ありえない……)
いったいどこの世界に三万の魔物を一層できる新人パーティがいる?
嘘だと思った。
虚勢だと思った。
でも、この少年の目は、嘘をついていないのだ。
「いったい……、何をするつもりだ……?」
「今は言えません」
レオンが、人差し指を唇に当てる。
秘密、というジェスチャー。
「でも、勝てるんです。僕らは、勝ちに行くんです」
その言葉を受けて、エリナが不敵に微笑んだ。
「そうですよ。私たちは『アルカナ』」
黒髪を翻し、胸を張る。黒曜石のような瞳には炎が宿っていた。
「不可能を可能にするパーティなんです」
ルナが、杖を高く掲げた。
「祝賀会、絶対開いてくださいね! あたし、美味しいもの食べたいんだから!」
シエルが、弓を抱きしめた。
銀髪が、窓から差し込む光を受けて輝いている。
「ボクたちを信じて、任せてください」
凛とした声。
ミーシャが、優雅に頷いた。
金髪が、さらりと揺れる。
「これは私たちのためにあるような、素敵な舞台ですわ」
聖女の微笑み。
でも、その奥には、本物の覚悟が宿っていた。
ギルドマスターは、その光景を見つめていた。
死地に赴く者たちの顔ではない。
まるで、輝かしい冒険の始まりを前にした、英雄たちのような――。
気がつくと、ギルドマスターは手を差し出していた。
震える手を。
「お前たち……」
声が、かすれていた。
一人、また一人と、その手を握っていく。
最初は、エリナ。
その手は、剣だこで硬かった。
何年も剣を振り続けてきた証。
でも、その手には確かな温もりがあった。
次は、ルナ。
その手は、小さくて、まだ震えていた。
でも、緋色の瞳には希望が燃えていた。
怖いけど、逃げない。
その決意が、小さな手から伝わってきた。
そして、シエル。
その手は、意外に柔らかかった。
でも、そこには確かな決意が満ちていた。
自分の人生を、自分で切り拓く決意が。
次に、ミーシャ。
その手は、優雅で、少しひんやりとしていた。
聖女の手。
でも、その冷たさの奥に、確かな意志があった。
そして最後に、レオン。
茶髪の青年が、手を差し出す。
その手を握った瞬間、ギルドマスターは確信した。
この少年は、本物だ。
何の根拠もない。
でも、この手には、人を導く力があると感じたのだ。
だから、信じてみよう。
この若者たち――『アルカナ』を。
「必ず……」
ギルドマスターは、握手の手を力強く揺らした。
涙が、頬を伝っていく――老兵の、熱い涙が。
「必ず、生きて帰ってこい」
その言葉に、レオンは力強く頷いた。
「はい」
翠色の瞳が、未来を見据えていた。
「この街は、『アルカナ』が守ってみせます」
◇
執務室を出て、ギルドの階段を下りていく。
五人の足音が、静かに響いた。
ホールには、まだ多くの冒険者たちが残っている。
彼らは、遠巻きに五人を見つめていた。
ひそひそと、囁き合う声が聞こえる。
「新人どもが、死にに行くらしいぜ」
「馬鹿な奴らだ」
「目立ちたがり屋め」
「せめて、苦しまずに死ねるといいな」
憐れみ。
嘲笑。
そして、ほんの少しの罪悪感。
自分たちが行かない代わりに、この若者たちが死ぬのだという、後ろめたさ。
それを誤魔化すために、彼らは笑っていた。
子供の泣き声。
母親の叫び声。
荷馬車の車輪が急いで石畳を転がる音。
街は、混乱の渦中にあった。
その時、レオンが笑った。
「ははっ!」
明るい、吹っ切れたような笑い声。
「十分です。ありがとうございます! すぐに準備をします!」
「待て……」
ギルドマスターが、立ち上がった。
「君たち、本当に……」
その目に、涙が浮かんでいた。
長年ギルドを預かってきた男。
数えきれないほどの冒険者を送り出し、少なくない数を失ってきた男。
でも、こんな感情を見せるのは、初めてだった。
「何を言ってるんですか」
レオンが、ぎゅっと拳を握る。
「祝賀会の準備、お願いしますよ?」
「……は?」
「凱旋するんですから」
「が、凱旋……?」
ギルドマスターは、目を大きく見開いた。
この少年は、何を言っているのか。
三万の魔物を相手に、凱旋?
正気の沙汰ではない。
「そんなに驚かないでください」
レオンの翠色の瞳が、輝いていた。
「僕らには、秘策があるんです」
「秘策……?」
「そう。三万の魔物たちを、一掃する秘策が」
その言葉に、ギルドマスターは絶句した。
(ありえない……)
いったいどこの世界に三万の魔物を一層できる新人パーティがいる?
嘘だと思った。
虚勢だと思った。
でも、この少年の目は、嘘をついていないのだ。
「いったい……、何をするつもりだ……?」
「今は言えません」
レオンが、人差し指を唇に当てる。
秘密、というジェスチャー。
「でも、勝てるんです。僕らは、勝ちに行くんです」
その言葉を受けて、エリナが不敵に微笑んだ。
「そうですよ。私たちは『アルカナ』」
黒髪を翻し、胸を張る。黒曜石のような瞳には炎が宿っていた。
「不可能を可能にするパーティなんです」
ルナが、杖を高く掲げた。
「祝賀会、絶対開いてくださいね! あたし、美味しいもの食べたいんだから!」
シエルが、弓を抱きしめた。
銀髪が、窓から差し込む光を受けて輝いている。
「ボクたちを信じて、任せてください」
凛とした声。
ミーシャが、優雅に頷いた。
金髪が、さらりと揺れる。
「これは私たちのためにあるような、素敵な舞台ですわ」
聖女の微笑み。
でも、その奥には、本物の覚悟が宿っていた。
ギルドマスターは、その光景を見つめていた。
死地に赴く者たちの顔ではない。
まるで、輝かしい冒険の始まりを前にした、英雄たちのような――。
気がつくと、ギルドマスターは手を差し出していた。
震える手を。
「お前たち……」
声が、かすれていた。
一人、また一人と、その手を握っていく。
最初は、エリナ。
その手は、剣だこで硬かった。
何年も剣を振り続けてきた証。
でも、その手には確かな温もりがあった。
次は、ルナ。
その手は、小さくて、まだ震えていた。
でも、緋色の瞳には希望が燃えていた。
怖いけど、逃げない。
その決意が、小さな手から伝わってきた。
そして、シエル。
その手は、意外に柔らかかった。
でも、そこには確かな決意が満ちていた。
自分の人生を、自分で切り拓く決意が。
次に、ミーシャ。
その手は、優雅で、少しひんやりとしていた。
聖女の手。
でも、その冷たさの奥に、確かな意志があった。
そして最後に、レオン。
茶髪の青年が、手を差し出す。
その手を握った瞬間、ギルドマスターは確信した。
この少年は、本物だ。
何の根拠もない。
でも、この手には、人を導く力があると感じたのだ。
だから、信じてみよう。
この若者たち――『アルカナ』を。
「必ず……」
ギルドマスターは、握手の手を力強く揺らした。
涙が、頬を伝っていく――老兵の、熱い涙が。
「必ず、生きて帰ってこい」
その言葉に、レオンは力強く頷いた。
「はい」
翠色の瞳が、未来を見据えていた。
「この街は、『アルカナ』が守ってみせます」
◇
執務室を出て、ギルドの階段を下りていく。
五人の足音が、静かに響いた。
ホールには、まだ多くの冒険者たちが残っている。
彼らは、遠巻きに五人を見つめていた。
ひそひそと、囁き合う声が聞こえる。
「新人どもが、死にに行くらしいぜ」
「馬鹿な奴らだ」
「目立ちたがり屋め」
「せめて、苦しまずに死ねるといいな」
憐れみ。
嘲笑。
そして、ほんの少しの罪悪感。
自分たちが行かない代わりに、この若者たちが死ぬのだという、後ろめたさ。
それを誤魔化すために、彼らは笑っていた。



