レオンも、『太陽の剣』にいた頃は、報酬の取り分が少なかった。
節約して、節約して、それでもギリギリの生活だった。
だから、彼女たちの気持ちは理解できる。
でも、だからこそ、ここで投資しなければならないのだ。
レオンは、二人の顔を交互に覗き込んだ。
その翠色の瞳に、温かな光が宿っている。
「装備は命。ここで新調すれば一段上の冒険者になれるよ? なってみようよ?」
静かな、でも真っ直ぐな問いかけ。
「そ、それは……」
ルナが言葉に詰まる。
「……」
エリナは無言でうつむいた。
二人とも、答えは分かっている。
強くなりたい。成功したい。今の生活から抜け出したい。
でも、過去の恐怖が邪魔をする。
このお金を使ってしまったら、また貧しくなるかもしれない。
また、あの地獄のような日々に戻るかもしれない。
その恐怖が、足を竦ませていた。
シエルも碧眼を曇らせて呟く。
「でも、全部は……」
公爵家にいた頃は、お金など気にしたこともなかった。
欲しいものは何でも手に入った。
でも、逃亡生活で、お金の大切さを嫌というほど骨身に染みて学ばされたのだ。
一枚の銅貨が、命を繋ぐこともある。
一杯のスープが、どれほどありがたいか。
だから、全てを使ってしまうことに、抵抗があった。
「成長したくない、いつまでも底辺でいいなら、好きに使えばいい」
レオンの声は、厳しい。
でも、その奥には、確信が満ちていた。
「でも、お金に困らない暮らしを目指すなら、アルカナのことを考えるなら――ここは悩むところじゃないよ?」
レオンは、三人を見回した。
「ね?」
しかし、三人はうつむいたままだった。
頭では分かっている。投資の重要性は、理解している。
でも、心がついていかない。
貧困に対する恐怖心は、簡単には変われない。
沈黙が流れる――。
その時だった。
ミーシャが、優雅にくすりと笑った。
「私は、買える一番高いホーリーロッドを買うわよ?」
金髪を翻し、堂々と宣言する。
「ふふっ」
その聖女の微笑みには、迷いがなかった。
ミーシャは孤児である。教会で育ち、施しで生きてきた。
お金の苦労は、誰よりも知っている。
でも、だからこそ分かっていた。
ここで投資しなければ、永遠に底辺のままだ。
お金は、貯めるためにあるのではない。
ここぞという時に使うためにあるのだ。
特に、自分を成長させるための投資は、惜しんではいけない。
それが、ミーシャが教会で学んだ、数少ない真実の一つだった。
「さすがだな……」
レオンが、感心したようにうなずいた。
「金貨四十枚なんて、これからいくらでも稼げるんだ」
力強い断言。
そこには、揺るぎない自信があった。
「『アルカナ』を信じてくれ」
その言葉が、少女たちの心に響いた。
『アルカナ』を信じる。
つまり、仲間を信じ、未来を信じる。
そして、自分自身を信じる――。
その瞬間何かが、弾けた。
エリナ、ルナ、シエル。
三人は、顔を見合わせた。
言葉は交わさない。でも、視線だけで通じ合う。
――信じてみようか。
――この男を。この仲間を。この未来を。
そして、エリナの漆黒の瞳に、変化が現れた。
「分かったわよ!」
エリナが、ヤケクソ気味に叫んだ。
「パーッと行きましょ! パーッと!」
口を尖らせながらも、その声は弾んでいる。
黒髪を翻して歩き出すその背中は、まるで新しい冒険へ飛び出す雛鳥のようだった。
「少し足りないくらいなら、いくらでも補填するから――」
レオンが、つい口を滑らせた。
その瞬間、ギラリと輝く四人の瞳――――。
しまった、と思った時には遅かった。
「あら? いいの? 悪いわねぇ」
ミーシャが悪戯っぽくレオンの顔を覗き込んだ。
その笑顔は、完全に「獲物を見つけた」という表情だった。
「あ、も、もちろんあくまでも少しだぞ」
レオンが、慌てて訂正する。
「こっちだって予算が……」
高利貸しへの返済がある。生活費も必要だ。宿代だって馬鹿にならない。
だが、時すでに遅し。
「じゃあ、早い者勝ちね? それーっ!」
ルナがその緋色の瞳をいたずらっぽく輝かせ、いきなり駆け出した。
「あ、ずるーい!」
シエルも銀髪を躍らせて追いかける。
「おいおい! 予算があるんだよぉぉ!」
レオンが慌てて追いかける。
でも、その声は悲鳴というより、笑い声に近かった。
嬉しいのだ。
こうやって、仲間と馬鹿をやれることが。
くだらないことで笑い合えることが。
節約して、節約して、それでもギリギリの生活だった。
だから、彼女たちの気持ちは理解できる。
でも、だからこそ、ここで投資しなければならないのだ。
レオンは、二人の顔を交互に覗き込んだ。
その翠色の瞳に、温かな光が宿っている。
「装備は命。ここで新調すれば一段上の冒険者になれるよ? なってみようよ?」
静かな、でも真っ直ぐな問いかけ。
「そ、それは……」
ルナが言葉に詰まる。
「……」
エリナは無言でうつむいた。
二人とも、答えは分かっている。
強くなりたい。成功したい。今の生活から抜け出したい。
でも、過去の恐怖が邪魔をする。
このお金を使ってしまったら、また貧しくなるかもしれない。
また、あの地獄のような日々に戻るかもしれない。
その恐怖が、足を竦ませていた。
シエルも碧眼を曇らせて呟く。
「でも、全部は……」
公爵家にいた頃は、お金など気にしたこともなかった。
欲しいものは何でも手に入った。
でも、逃亡生活で、お金の大切さを嫌というほど骨身に染みて学ばされたのだ。
一枚の銅貨が、命を繋ぐこともある。
一杯のスープが、どれほどありがたいか。
だから、全てを使ってしまうことに、抵抗があった。
「成長したくない、いつまでも底辺でいいなら、好きに使えばいい」
レオンの声は、厳しい。
でも、その奥には、確信が満ちていた。
「でも、お金に困らない暮らしを目指すなら、アルカナのことを考えるなら――ここは悩むところじゃないよ?」
レオンは、三人を見回した。
「ね?」
しかし、三人はうつむいたままだった。
頭では分かっている。投資の重要性は、理解している。
でも、心がついていかない。
貧困に対する恐怖心は、簡単には変われない。
沈黙が流れる――。
その時だった。
ミーシャが、優雅にくすりと笑った。
「私は、買える一番高いホーリーロッドを買うわよ?」
金髪を翻し、堂々と宣言する。
「ふふっ」
その聖女の微笑みには、迷いがなかった。
ミーシャは孤児である。教会で育ち、施しで生きてきた。
お金の苦労は、誰よりも知っている。
でも、だからこそ分かっていた。
ここで投資しなければ、永遠に底辺のままだ。
お金は、貯めるためにあるのではない。
ここぞという時に使うためにあるのだ。
特に、自分を成長させるための投資は、惜しんではいけない。
それが、ミーシャが教会で学んだ、数少ない真実の一つだった。
「さすがだな……」
レオンが、感心したようにうなずいた。
「金貨四十枚なんて、これからいくらでも稼げるんだ」
力強い断言。
そこには、揺るぎない自信があった。
「『アルカナ』を信じてくれ」
その言葉が、少女たちの心に響いた。
『アルカナ』を信じる。
つまり、仲間を信じ、未来を信じる。
そして、自分自身を信じる――。
その瞬間何かが、弾けた。
エリナ、ルナ、シエル。
三人は、顔を見合わせた。
言葉は交わさない。でも、視線だけで通じ合う。
――信じてみようか。
――この男を。この仲間を。この未来を。
そして、エリナの漆黒の瞳に、変化が現れた。
「分かったわよ!」
エリナが、ヤケクソ気味に叫んだ。
「パーッと行きましょ! パーッと!」
口を尖らせながらも、その声は弾んでいる。
黒髪を翻して歩き出すその背中は、まるで新しい冒険へ飛び出す雛鳥のようだった。
「少し足りないくらいなら、いくらでも補填するから――」
レオンが、つい口を滑らせた。
その瞬間、ギラリと輝く四人の瞳――――。
しまった、と思った時には遅かった。
「あら? いいの? 悪いわねぇ」
ミーシャが悪戯っぽくレオンの顔を覗き込んだ。
その笑顔は、完全に「獲物を見つけた」という表情だった。
「あ、も、もちろんあくまでも少しだぞ」
レオンが、慌てて訂正する。
「こっちだって予算が……」
高利貸しへの返済がある。生活費も必要だ。宿代だって馬鹿にならない。
だが、時すでに遅し。
「じゃあ、早い者勝ちね? それーっ!」
ルナがその緋色の瞳をいたずらっぽく輝かせ、いきなり駆け出した。
「あ、ずるーい!」
シエルも銀髪を躍らせて追いかける。
「おいおい! 予算があるんだよぉぉ!」
レオンが慌てて追いかける。
でも、その声は悲鳴というより、笑い声に近かった。
嬉しいのだ。
こうやって、仲間と馬鹿をやれることが。
くだらないことで笑い合えることが。



