運が悪いだけで地獄へ突き落とされる社会など、間違っている。
【運命鑑定】が初めて発動して見せてくれた未来の輝きには、そういう腐った社会すら浄化していく力を感じたのだ。だから落ちこぼれの彼女たちと出会った時、一緒にそこを目指そうと思った。この世界を変えたかったから。誰もが笑顔で暮らせる世界を創りたかったから。
「ふーん」
シアンは興味深そうにレオンを見つめた。その碧い瞳の奥で何かが動いたように見えた。退屈そうだった眼差しにほんの一瞬、微かな光が宿る。
「まぁ、それは熾天使としても望むところだけど……具体的にはどうしたいの?」
「みんなが平等で、貧困がない世界を……作りたいんですけど……」
レオンはそこで言葉を詰まらせた。理想はある。胸の奥で確かに燃え続けている炎がある。けれどそれを実現する方法が分からない。どうすれば貧困をなくせるのか。どうすれば平等な社会を創れるのか。そんな答えをレオンは持っていなかった。
「……って、無理ですよね? そんな社会、作りようがない……」
自嘲気味にそう呟いた。人は皆、富を、権力を求める。そうしなければ蹴落とされるのが人の世だ。だから必死に利権構造を作り、それを脅かすものを徹底的に排除する。権力者の首を挿げ替えても、新たな利権構造ができるだけ。庶民は常に搾取され、虐げられ、踏みにじられる。それが人間という生き物の本質なのかもしれない。
肩が落ちる。視線が地面に向かう。握りしめた拳が力なく開いていく。
ところが。
「ははっ! 無理じゃないわよ?」
シアンは楽しげに笑った。その碧い瞳が悪戯っぽく輝いている。まるで面白い玩具を見つけた子供のように。
そしてパチン、と指を鳴らした。
その瞬間、世界が歪んだ。
「へ?」「はぁっ!?」「こ、これは……!?」「な、何が……!?」「きゃっ!?」
視界が捻れ、空間が折り畳まれ、すべてが混沌に呑み込まれる。色が溶け、形が崩れ、上下左右の感覚が消失する。一瞬の浮遊感。世界そのものが万華鏡のように回転している――。
そして。
ブワっと、見たことのない景色が五人を包み込んだ。
レオンは呆然と周囲を見回した。そこは見たこともない世界だった。
ガラスと鋼鉄でできた巨大な建造物の群れ。天を衝くような超高層の塔が無数に立ち並んでいたのだ。
夕暮れの茜色に染まる空が群青色へと壮大なグラデーションを描き、その眼下に広がるのは、想像を絶する光景だった。
王城よりも高く、教会の尖塔よりも巨大な建物が数えきれないほど。その窓という窓から煌びやかな光が溢れ出している。まるで地上に降りた星々のように。
一行はその超高層ビルの一つの屋上に立っていた。足元には見たこともない素材でできた透明の床が広がり、吹き抜ける風が髪を靡かせる。高い。とてつもなく高い。足がすくむような高さだった。
眼下に広がる宝石を散りばめたような壮大な夜景。赤、青、緑、黄色、無数の光がまるで生きているかのように瞬いている。道という道を赤いテールランプとヘッドライトの光の川が流れ、建物という建物が宝石のように輝いている。
それはまるで地上に創られた、もう一つの銀河だった。
「な、なんだ……これ……」
レオンは声を震わせた。言葉が出てこない。目の前の光景があまりにも現実離れしていて、脳が処理を拒否している。これは夢か。それとも死後の世界か。どちらとも判断がつかなかった。
「ほわぁぁぁ……」
ミーシャが呆然と呟いた。いつもの余裕ある微笑みはどこにもなく、ただ純粋な驚愕だけがその空色の瞳に浮かんでいる。金色の髪が夜景の光を受けて神秘的に輝いていた。
「き、綺麗……」
ルナが食い入るように夜景を見つめている。緋色の瞳に無数の煌めきが映り込み、まるで瞳の中に星空が生まれたかのようだった。その横顔はいつもの勝気な少女とは思えないほど無防備で純粋だった。
「こんな世界が、あるの……?」
シエルが信じられないという顔で周囲を見回している。貴族の令嬢として数々の豪華な城や館を見てきたはずの彼女でさえ、この光景には言葉を失っていた。その碧眼には驚きと、そして微かな憧れが宿っていた。
「こ、これって……」
エリナの黒曜石の瞳が珍しく驚愕に見開かれている。いやそれだけではない。どこか懐かしそうな、切なそうな色がその奥に揺れていた。
「こ、ここは……?」
レオンはそのどこまでも続く夜景を見回しながら呆然と呟いた。地平線の彼方まで光の海が広がっている。終わりが見えない。人の手でこれほどのものが創れるのか。
「ふふん、ここは僕のお気に入りの街だゾ? ここはみんな平等で貧困もないゾ。どう?」
シアンはドヤ顔でレオンの顔を覗き込む。その碧い瞳が得意げに輝いている。
ゴォォォォォ……!
その時、轟音が空を切り裂いた。
「へっ!?」「はぁっ!?」「うひゃぁ!」
巨大な影が頭上を通り過ぎていく。銀色の翼を持った巨大な何か。鳥ではない。竜でもない。金属でできた巨大な飛行物体。その腹には無数の窓が並んでいて、中に人影が見えた気がした。それは遥か彼方の地平線に向かって優雅に降下していく。
【運命鑑定】が初めて発動して見せてくれた未来の輝きには、そういう腐った社会すら浄化していく力を感じたのだ。だから落ちこぼれの彼女たちと出会った時、一緒にそこを目指そうと思った。この世界を変えたかったから。誰もが笑顔で暮らせる世界を創りたかったから。
「ふーん」
シアンは興味深そうにレオンを見つめた。その碧い瞳の奥で何かが動いたように見えた。退屈そうだった眼差しにほんの一瞬、微かな光が宿る。
「まぁ、それは熾天使としても望むところだけど……具体的にはどうしたいの?」
「みんなが平等で、貧困がない世界を……作りたいんですけど……」
レオンはそこで言葉を詰まらせた。理想はある。胸の奥で確かに燃え続けている炎がある。けれどそれを実現する方法が分からない。どうすれば貧困をなくせるのか。どうすれば平等な社会を創れるのか。そんな答えをレオンは持っていなかった。
「……って、無理ですよね? そんな社会、作りようがない……」
自嘲気味にそう呟いた。人は皆、富を、権力を求める。そうしなければ蹴落とされるのが人の世だ。だから必死に利権構造を作り、それを脅かすものを徹底的に排除する。権力者の首を挿げ替えても、新たな利権構造ができるだけ。庶民は常に搾取され、虐げられ、踏みにじられる。それが人間という生き物の本質なのかもしれない。
肩が落ちる。視線が地面に向かう。握りしめた拳が力なく開いていく。
ところが。
「ははっ! 無理じゃないわよ?」
シアンは楽しげに笑った。その碧い瞳が悪戯っぽく輝いている。まるで面白い玩具を見つけた子供のように。
そしてパチン、と指を鳴らした。
その瞬間、世界が歪んだ。
「へ?」「はぁっ!?」「こ、これは……!?」「な、何が……!?」「きゃっ!?」
視界が捻れ、空間が折り畳まれ、すべてが混沌に呑み込まれる。色が溶け、形が崩れ、上下左右の感覚が消失する。一瞬の浮遊感。世界そのものが万華鏡のように回転している――。
そして。
ブワっと、見たことのない景色が五人を包み込んだ。
レオンは呆然と周囲を見回した。そこは見たこともない世界だった。
ガラスと鋼鉄でできた巨大な建造物の群れ。天を衝くような超高層の塔が無数に立ち並んでいたのだ。
夕暮れの茜色に染まる空が群青色へと壮大なグラデーションを描き、その眼下に広がるのは、想像を絶する光景だった。
王城よりも高く、教会の尖塔よりも巨大な建物が数えきれないほど。その窓という窓から煌びやかな光が溢れ出している。まるで地上に降りた星々のように。
一行はその超高層ビルの一つの屋上に立っていた。足元には見たこともない素材でできた透明の床が広がり、吹き抜ける風が髪を靡かせる。高い。とてつもなく高い。足がすくむような高さだった。
眼下に広がる宝石を散りばめたような壮大な夜景。赤、青、緑、黄色、無数の光がまるで生きているかのように瞬いている。道という道を赤いテールランプとヘッドライトの光の川が流れ、建物という建物が宝石のように輝いている。
それはまるで地上に創られた、もう一つの銀河だった。
「な、なんだ……これ……」
レオンは声を震わせた。言葉が出てこない。目の前の光景があまりにも現実離れしていて、脳が処理を拒否している。これは夢か。それとも死後の世界か。どちらとも判断がつかなかった。
「ほわぁぁぁ……」
ミーシャが呆然と呟いた。いつもの余裕ある微笑みはどこにもなく、ただ純粋な驚愕だけがその空色の瞳に浮かんでいる。金色の髪が夜景の光を受けて神秘的に輝いていた。
「き、綺麗……」
ルナが食い入るように夜景を見つめている。緋色の瞳に無数の煌めきが映り込み、まるで瞳の中に星空が生まれたかのようだった。その横顔はいつもの勝気な少女とは思えないほど無防備で純粋だった。
「こんな世界が、あるの……?」
シエルが信じられないという顔で周囲を見回している。貴族の令嬢として数々の豪華な城や館を見てきたはずの彼女でさえ、この光景には言葉を失っていた。その碧眼には驚きと、そして微かな憧れが宿っていた。
「こ、これって……」
エリナの黒曜石の瞳が珍しく驚愕に見開かれている。いやそれだけではない。どこか懐かしそうな、切なそうな色がその奥に揺れていた。
「こ、ここは……?」
レオンはそのどこまでも続く夜景を見回しながら呆然と呟いた。地平線の彼方まで光の海が広がっている。終わりが見えない。人の手でこれほどのものが創れるのか。
「ふふん、ここは僕のお気に入りの街だゾ? ここはみんな平等で貧困もないゾ。どう?」
シアンはドヤ顔でレオンの顔を覗き込む。その碧い瞳が得意げに輝いている。
ゴォォォォォ……!
その時、轟音が空を切り裂いた。
「へっ!?」「はぁっ!?」「うひゃぁ!」
巨大な影が頭上を通り過ぎていく。銀色の翼を持った巨大な何か。鳥ではない。竜でもない。金属でできた巨大な飛行物体。その腹には無数の窓が並んでいて、中に人影が見えた気がした。それは遥か彼方の地平線に向かって優雅に降下していく。



