「でも、やるでしょ?」
シアンはニヤリと楽しそうに碧眼を光らせる。
「い、いや、まぁ、それは……」
「顔見たいでしょ?」
「えっ!? いや、それは……」
レオンが言葉に詰まっていると、ルナが怪訝そうに二人を見上げた。
「何の話してるの?」
「い、いや、何でもない! 大丈夫! 寿命を四十年も出してもらったんだし、いまさら結婚を撤回なんてしないよ。安心して!」
レオンは慌ててシアンと距離を取り、ルナの緋色の瞳を覗き込んだ。
「ほ、本当……?」
ルナの声が小さく震えている。まだ不安が消えていないのだ。
「本当さ。ルナは妹だったかもしれないけど、今は僕の大切なお嫁さんだもん」
その言葉を聞いた瞬間、ルナの瞳から新たな涙が溢れた。
「よ、良かった……」
ルナはレオンの胸に顔をうずめ、くぐもった声で言った。その耳が真っ赤に染まっている。その姿がどうしようもなく愛おしかった。
レオンはそっとルナの頭を撫でる。柔らかな赤髪が指の間をすり抜けていく。七年前、よく撫でていた妹の頭。あの頃とは髪の色も感触も違う。黒髪だったリナの髪は、今は燃えるような赤になっている。けれどその温もりは確かに同じだった。頭を撫でられて嬉しそうに目を細めるその仕草も、どこか似ている気がした。
「……ありがとう、リナ」
レオンは静かに呟いた。声が震える。また涙が込み上げてくる。
「生きていてくれて、ありがとう。また会えて、ありがとう」
ルナの肩がびくりと震えた。そして、また泣き始める。今度は声を上げて、子供のようにわんわんと。我慢していたものが全て溢れ出したかのように、声を上げて泣きじゃくる。
レオンはそんなルナをそっと抱きしめた。小さな身体を包み込むように、壊れ物を扱うように、けれどしっかりと。
もう二度と離さない。今度こそ守り抜く。
七年前に果たせなかった約束を、今度こそ果たす。兄として、そして夫として、この子を一生守り続ける。
そう心の中で誓いながら、レオンは静かに目を閉じた。腕の中で泣き続けるルナの温もりを感じながら、七年越しの再会の喜びを噛みしめていた。
◇
「寿命四十年? 結構払ったわねぇ」
シアンは感心したように目を丸くした。そして王都方向の、大地のえぐれたクレーターの続く風景を感慨深そうに眺めた。
「それで、これをね?」
「人生を半分かけちゃいましたよ……」
レオンは苦笑した。八十年の寿命のうち四十年。五人で分け合ったとはいえ、全員四十年もの命を差し出したのだ。人生の半分。後半生のすべてを、この一瞬のために捧げた。
けれど後悔はなかった。この選択のおかげで世界を救えたのだ。王都の人々は生き延び、子供たちの笑い声は消えなかった。それだけで十分だった。
ところが。
「ふーん。じゃあ、面白いことやってくれたら、元に戻してあげるよ。ふふっ」
シアンはニヤリと笑った。碧い瞳が悪戯っぽく輝いている。
「へっ!? お、面白いこと?」
「王都の人たち殺さないんでしょ? 何か別なこと叶えてあげるケド、それでなんか面白いことやってよ」
その言葉にレオンは息を呑んだ。寿命を元に戻してくれる。そんな奇跡が、本当に可能なのか。
「へ? 何でも叶えてくれるんですか?」
「おぅ! 何だっていいよ。面白いことならね!」
シアンは胸を張った。
「なんたって僕は全知全能の熾天使だからね。山も割れるし、黄金の山だって築けるよ? 世界征服でも、不老不死でも、何でもござれ!」
「す、凄い……」「ほわぁ……」
少女たちが圧倒されたように声を漏らした。全知全能。何でも叶えられる。それは夢物語のような話だった。けれど魔の山を吹き飛ばした光景を見れば、それが真実だと分かる。彼女には本当に何でもできるのだ。
レオンは静かに目を閉じた。
何を願うべきか。何を望むべきか。
胸の奥にずっと燃え続けている炎がある。幼い頃からずっと抱き続けてきた想いがある。追放され、裏切られ、すべてを失っても消えることのなかった一つの夢が。
それは富でも、名声でも、権力でもなかった。もっと大きな、もっと途方もない、けれど誰よりも切実な願い。
「ぼ、僕は……」
レオンはゆっくりと目を開けた。翠色の瞳に確かな意志の光が宿る。
「みんなが幸せに暮らせる世界を、創りたいんです」
その言葉は静かだった。けれどその奥には、燃えるような情熱が秘められていた。
王侯貴族に理不尽に支配され、多くの人が貧困にあえいでいる現実。借金のかたに奴隷として売られ、悲惨な目に遭っている人々。生まれた家柄だけで人生のすべてが決まってしまう世界。そんな社会をレオンはどうしても受け入れることができなかった。
自分自身、奴隷に落とされかけたのだ。首に刻印を押され、人間としての尊厳を奪われる寸前だった。今こうして自由に生きていられるのは、たまたま運が良かっただけに過ぎない。そして運が悪かった人などごまんといるのだ。
シアンはニヤリと楽しそうに碧眼を光らせる。
「い、いや、まぁ、それは……」
「顔見たいでしょ?」
「えっ!? いや、それは……」
レオンが言葉に詰まっていると、ルナが怪訝そうに二人を見上げた。
「何の話してるの?」
「い、いや、何でもない! 大丈夫! 寿命を四十年も出してもらったんだし、いまさら結婚を撤回なんてしないよ。安心して!」
レオンは慌ててシアンと距離を取り、ルナの緋色の瞳を覗き込んだ。
「ほ、本当……?」
ルナの声が小さく震えている。まだ不安が消えていないのだ。
「本当さ。ルナは妹だったかもしれないけど、今は僕の大切なお嫁さんだもん」
その言葉を聞いた瞬間、ルナの瞳から新たな涙が溢れた。
「よ、良かった……」
ルナはレオンの胸に顔をうずめ、くぐもった声で言った。その耳が真っ赤に染まっている。その姿がどうしようもなく愛おしかった。
レオンはそっとルナの頭を撫でる。柔らかな赤髪が指の間をすり抜けていく。七年前、よく撫でていた妹の頭。あの頃とは髪の色も感触も違う。黒髪だったリナの髪は、今は燃えるような赤になっている。けれどその温もりは確かに同じだった。頭を撫でられて嬉しそうに目を細めるその仕草も、どこか似ている気がした。
「……ありがとう、リナ」
レオンは静かに呟いた。声が震える。また涙が込み上げてくる。
「生きていてくれて、ありがとう。また会えて、ありがとう」
ルナの肩がびくりと震えた。そして、また泣き始める。今度は声を上げて、子供のようにわんわんと。我慢していたものが全て溢れ出したかのように、声を上げて泣きじゃくる。
レオンはそんなルナをそっと抱きしめた。小さな身体を包み込むように、壊れ物を扱うように、けれどしっかりと。
もう二度と離さない。今度こそ守り抜く。
七年前に果たせなかった約束を、今度こそ果たす。兄として、そして夫として、この子を一生守り続ける。
そう心の中で誓いながら、レオンは静かに目を閉じた。腕の中で泣き続けるルナの温もりを感じながら、七年越しの再会の喜びを噛みしめていた。
◇
「寿命四十年? 結構払ったわねぇ」
シアンは感心したように目を丸くした。そして王都方向の、大地のえぐれたクレーターの続く風景を感慨深そうに眺めた。
「それで、これをね?」
「人生を半分かけちゃいましたよ……」
レオンは苦笑した。八十年の寿命のうち四十年。五人で分け合ったとはいえ、全員四十年もの命を差し出したのだ。人生の半分。後半生のすべてを、この一瞬のために捧げた。
けれど後悔はなかった。この選択のおかげで世界を救えたのだ。王都の人々は生き延び、子供たちの笑い声は消えなかった。それだけで十分だった。
ところが。
「ふーん。じゃあ、面白いことやってくれたら、元に戻してあげるよ。ふふっ」
シアンはニヤリと笑った。碧い瞳が悪戯っぽく輝いている。
「へっ!? お、面白いこと?」
「王都の人たち殺さないんでしょ? 何か別なこと叶えてあげるケド、それでなんか面白いことやってよ」
その言葉にレオンは息を呑んだ。寿命を元に戻してくれる。そんな奇跡が、本当に可能なのか。
「へ? 何でも叶えてくれるんですか?」
「おぅ! 何だっていいよ。面白いことならね!」
シアンは胸を張った。
「なんたって僕は全知全能の熾天使だからね。山も割れるし、黄金の山だって築けるよ? 世界征服でも、不老不死でも、何でもござれ!」
「す、凄い……」「ほわぁ……」
少女たちが圧倒されたように声を漏らした。全知全能。何でも叶えられる。それは夢物語のような話だった。けれど魔の山を吹き飛ばした光景を見れば、それが真実だと分かる。彼女には本当に何でもできるのだ。
レオンは静かに目を閉じた。
何を願うべきか。何を望むべきか。
胸の奥にずっと燃え続けている炎がある。幼い頃からずっと抱き続けてきた想いがある。追放され、裏切られ、すべてを失っても消えることのなかった一つの夢が。
それは富でも、名声でも、権力でもなかった。もっと大きな、もっと途方もない、けれど誰よりも切実な願い。
「ぼ、僕は……」
レオンはゆっくりと目を開けた。翠色の瞳に確かな意志の光が宿る。
「みんなが幸せに暮らせる世界を、創りたいんです」
その言葉は静かだった。けれどその奥には、燃えるような情熱が秘められていた。
王侯貴族に理不尽に支配され、多くの人が貧困にあえいでいる現実。借金のかたに奴隷として売られ、悲惨な目に遭っている人々。生まれた家柄だけで人生のすべてが決まってしまう世界。そんな社会をレオンはどうしても受け入れることができなかった。
自分自身、奴隷に落とされかけたのだ。首に刻印を押され、人間としての尊厳を奪われる寸前だった。今こうして自由に生きていられるのは、たまたま運が良かっただけに過ぎない。そして運が悪かった人などごまんといるのだ。



