「あたしは……あたしはルナよ……」
懸命に主張する。
「リナの時の記憶なんて、ほとんどない……。顔も、声も、何も思い出せない……」
嗚咽が漏れる。肩が震え、声が途切れる。
「でも、でも……」
ルナの指がレオンの服を強く掴んだ。
「あんたのこと……初めて会った時から、どこか懐かしかった……」
声が震えている。言葉が涙で濡れている。
「どうしてか分からないけど、ずっと側にいたいって思った……。あんたが笑うと、なぜか胸が温かくなった……。あんたが傷つくと、なぜか自分のことみたいに苦しかった……」
それは魂の記憶だったのかもしれない。前世の絆が無意識のうちに二人を引き寄せていたのかもしれない。言葉では説明できない、魂の奥底に刻まれた繋がり。血よりも深い、運命の糸。
「もう結婚したんだからぁ……! いまさら、妹だからって、突き放さないでよ……!」
最後の言葉はほとんど悲鳴だった。恐怖と不安と懇願が入り混じった、魂からの叫び。
「リナ……」
レオンはそっとルナの背中に手を回した。温かい。小さな身体が確かにそこにある。七年前、冷たくなっていった妹の身体。二度と触れることができないと思っていたあの温もり。それが今、腕の中にある。形を変えて、名前を変えて、けれど確かにここにある。
涙が頬を伝った。知らず知らずのうちに泣いていた。止めようと思っても止められなかった。七年分の涙が堰を切ったように溢れ出していく。悲しみではない。喜びでもない。その両方が混じり合った、名前のつけられない感情が胸の奥から込み上げてくる。
「ずっと……ずっと、会いたかった……」
声がかすれた。喉が詰まってうまく言葉が出てこない。
「守れなくて、ごめん……。あの時、何もできなくて、ごめん……」
七年間ずっと胸の奥で燃え続けていた罪悪感。眠れない夜に何度も何度も繰り返した謝罪の言葉。それが涙と一緒に溢れ出していく。
「リナが死んだ時、僕は何もできなかった……。ただ震えて、泣いて、名前を呼ぶことしかできなかった……」
情けない兄だった。守るべき妹を守れなかった。それがずっと心の傷になっていた。
「ば、馬鹿……。謝んないでよ……」
ルナも泣いていた。レオンの胸に顔を埋めて、声を殺して泣いていた。
「そう、思い出した……。あたしは……幸せだったんだから……」
その声は嗚咽で途切れ途切れだった。記憶の奥底から、かすかな光が蘇ってきたのかもしれない。
「最期まで、お兄ちゃんが側にいてくれて……。一人じゃなくて……温かい手で握っていてくれて……」
その言葉がレオンの胸を締め付けた。リナは恨んでなどいなかったのだ。最期の瞬間まで兄の手の温もりを感じながら、安らかに逝ったのだ。
「だから……もう気に病まなくていいわ……」
ルナは顔を上げた。涙で濡れた緋色の瞳がまっすぐにレオンを見つめている。その瞳の奥に、かつての妹の面影が見えた気がした。
「もう、離れないんだから……。絶対に、絶対に……」
しがみつく腕にさらに力が込められる。まるで離したら消えてしまうとでも言うように。
◇
妹と妻という、かけ離れた二つのイメージがルナという存在の中で一つになる。その全く想定外の事態にレオンは困惑していた。妹を妻にした。それは倫理的にどうなのだろう。世間はどう見るのだろう。そんな考えが頭をよぎる。
だが。
「兄妹で結婚したって、別に構わないんじゃないの? きゃははは!」
シアンが楽しそうに笑い飛ばした。神にとって人間の倫理観など、取るに足らないものなのだろう。
そうだ、とレオンは思った。愛しい存在という意味では妹も妻もレオンの中では同じだった。形は違えど、守りたいという想いは同じ。大切にしたいという気持ちは同じ。それにもう一緒に寿命を捧げ、魂を繋ぎ、永遠の絆を結んだのだ。妹だからといって今更それを覆すなどあってはならない。
ふとレオンの脳裏を一つの不安がよぎった。兄妹間の子供に問題がある話は聞いたことがある。もし将来、子供を授かることがあったら……。
するとシアンは悪戯っぽい笑みを浮かべ、レオンの耳元で囁いた。
「それなら安心していいよ。くふふふ……」
「なっ! 考えも読めるんですか!?」
レオンは真っ赤になった。心の中まで筒抜けだったとは。
「僕は熾天使ダゾ? 全知全能なんだからさ。まぁ、君みたいな男の考えそうなことは読まなくたって分かるんだよね。あれならもう赤ちゃん登場させちゃおうか?」
「へ……? あ、赤ちゃん?」
レオンは目を丸くした。話が急に飛躍しすぎている。
「二人の間に生まれる赤ちゃんの先取りっ! 可愛い女の子だよ? くふふふ……」
「ま、まだ何もしてないのに?」
レオンは唖然とした。もうルナとの間に生まれる赤ちゃんは決まっているらしい。運命は既に定められているということなのか。それとも熾天使にはそこまで見通す力があるということなのか。
懸命に主張する。
「リナの時の記憶なんて、ほとんどない……。顔も、声も、何も思い出せない……」
嗚咽が漏れる。肩が震え、声が途切れる。
「でも、でも……」
ルナの指がレオンの服を強く掴んだ。
「あんたのこと……初めて会った時から、どこか懐かしかった……」
声が震えている。言葉が涙で濡れている。
「どうしてか分からないけど、ずっと側にいたいって思った……。あんたが笑うと、なぜか胸が温かくなった……。あんたが傷つくと、なぜか自分のことみたいに苦しかった……」
それは魂の記憶だったのかもしれない。前世の絆が無意識のうちに二人を引き寄せていたのかもしれない。言葉では説明できない、魂の奥底に刻まれた繋がり。血よりも深い、運命の糸。
「もう結婚したんだからぁ……! いまさら、妹だからって、突き放さないでよ……!」
最後の言葉はほとんど悲鳴だった。恐怖と不安と懇願が入り混じった、魂からの叫び。
「リナ……」
レオンはそっとルナの背中に手を回した。温かい。小さな身体が確かにそこにある。七年前、冷たくなっていった妹の身体。二度と触れることができないと思っていたあの温もり。それが今、腕の中にある。形を変えて、名前を変えて、けれど確かにここにある。
涙が頬を伝った。知らず知らずのうちに泣いていた。止めようと思っても止められなかった。七年分の涙が堰を切ったように溢れ出していく。悲しみではない。喜びでもない。その両方が混じり合った、名前のつけられない感情が胸の奥から込み上げてくる。
「ずっと……ずっと、会いたかった……」
声がかすれた。喉が詰まってうまく言葉が出てこない。
「守れなくて、ごめん……。あの時、何もできなくて、ごめん……」
七年間ずっと胸の奥で燃え続けていた罪悪感。眠れない夜に何度も何度も繰り返した謝罪の言葉。それが涙と一緒に溢れ出していく。
「リナが死んだ時、僕は何もできなかった……。ただ震えて、泣いて、名前を呼ぶことしかできなかった……」
情けない兄だった。守るべき妹を守れなかった。それがずっと心の傷になっていた。
「ば、馬鹿……。謝んないでよ……」
ルナも泣いていた。レオンの胸に顔を埋めて、声を殺して泣いていた。
「そう、思い出した……。あたしは……幸せだったんだから……」
その声は嗚咽で途切れ途切れだった。記憶の奥底から、かすかな光が蘇ってきたのかもしれない。
「最期まで、お兄ちゃんが側にいてくれて……。一人じゃなくて……温かい手で握っていてくれて……」
その言葉がレオンの胸を締め付けた。リナは恨んでなどいなかったのだ。最期の瞬間まで兄の手の温もりを感じながら、安らかに逝ったのだ。
「だから……もう気に病まなくていいわ……」
ルナは顔を上げた。涙で濡れた緋色の瞳がまっすぐにレオンを見つめている。その瞳の奥に、かつての妹の面影が見えた気がした。
「もう、離れないんだから……。絶対に、絶対に……」
しがみつく腕にさらに力が込められる。まるで離したら消えてしまうとでも言うように。
◇
妹と妻という、かけ離れた二つのイメージがルナという存在の中で一つになる。その全く想定外の事態にレオンは困惑していた。妹を妻にした。それは倫理的にどうなのだろう。世間はどう見るのだろう。そんな考えが頭をよぎる。
だが。
「兄妹で結婚したって、別に構わないんじゃないの? きゃははは!」
シアンが楽しそうに笑い飛ばした。神にとって人間の倫理観など、取るに足らないものなのだろう。
そうだ、とレオンは思った。愛しい存在という意味では妹も妻もレオンの中では同じだった。形は違えど、守りたいという想いは同じ。大切にしたいという気持ちは同じ。それにもう一緒に寿命を捧げ、魂を繋ぎ、永遠の絆を結んだのだ。妹だからといって今更それを覆すなどあってはならない。
ふとレオンの脳裏を一つの不安がよぎった。兄妹間の子供に問題がある話は聞いたことがある。もし将来、子供を授かることがあったら……。
するとシアンは悪戯っぽい笑みを浮かべ、レオンの耳元で囁いた。
「それなら安心していいよ。くふふふ……」
「なっ! 考えも読めるんですか!?」
レオンは真っ赤になった。心の中まで筒抜けだったとは。
「僕は熾天使ダゾ? 全知全能なんだからさ。まぁ、君みたいな男の考えそうなことは読まなくたって分かるんだよね。あれならもう赤ちゃん登場させちゃおうか?」
「へ……? あ、赤ちゃん?」
レオンは目を丸くした。話が急に飛躍しすぎている。
「二人の間に生まれる赤ちゃんの先取りっ! 可愛い女の子だよ? くふふふ……」
「ま、まだ何もしてないのに?」
レオンは唖然とした。もうルナとの間に生まれる赤ちゃんは決まっているらしい。運命は既に定められているということなのか。それとも熾天使にはそこまで見通す力があるということなのか。



