「そうだ! 魔の山! 魔の山に落としてください! わ、分かりますか!?」
レオンは藁にもすがる思いで叫んだ。
「うん! いいよ!」
シアンはニコッと笑ってあっさりと頷いた。拍子抜けするほどあっさりと。
「魔の山は僕が創ったんだから、よく知ってるぅーー!」
彼女は宙に浮かぶ魔法陣を指さすと、チョコチョコっと指先を動かした。軽やかに、優雅に、子供がお絵描きをするような気軽さで終末の魔法を操っている。
「ホイホイホイっとね!」
魔法陣の一部が真紅から青へと書き換えられていく。術式が修正され、照準が変更される。
「それ行けぇ! きゃははは!」
直後――魔法陣が閃光を放ち、真っ赤に炸裂した。世界が光に埋まる。すべての色が消え、すべての影が消え、純白の閃光だけが世界を支配する。
「ぐわぁぁぁ!」「ひぃぃぃ!」「まぶしっ……!」「目がぁ……!」
少女たちが悲鳴を上げて目を覆う。レオンも思わず腕で顔を庇った。網膜が焼けるような圧倒的な光。太陽を直視した時の何百倍もの眩しさ。
「きゃははは! たーまやー!!」
シアンだけが花火大会を楽しむ子供のように楽しげに笑っていた。
やがて光が収まり、少しずつ世界に色が戻ってくる。レオンは恐る恐る目を開け、言葉を失った。
「くはぁ……」
山脈の向こうに、灼熱の巨大なキノコ雲が噴き上がっている。先ほど見た光景よりもさらに巨大な、さらに恐ろしい、天を衝くほどの終末の炎。その高さは数十キロメートルはあるだろうか。雲を突き抜け成層圏にまで達する途方もない規模で、キノコ雲の内部では灼熱の赤色が渦巻き、稲妻が閃いている。まるでそこだけ別の太陽が生まれたかのような凄まじい熱量だった。
続いて白い繭のような球形の衝撃波が広がっていくのが見えた。ゆっくりと、けれど確実に、こちらにも向かって迫ってくる。世界を揺るがす終末の波動が、今まさにレオンたちを飲み込もうとしていた。
その速度は、見た目よりも遥かに速かった。
音速を超え、暴風を伴い、すべてを薙ぎ払いながら迫ってくる破壊の波。大地を削り、岩を砕き、空気そのものを灼きながら、終末の衝撃波が五人に向かって押し寄せてくる。
「え? これ、もしかして……」
レオンの声が震えた。あの巨大なキノコ雲から放たれた衝撃波が、今まさに自分たちを飲み込もうとしている。とても逃げられない。
「ほっとくと吹き飛ばされちゃうぞ? きゃははは!」
シアンは実に楽しそうに笑った。まるで遊園地のアトラクションを楽しんでいるかのように。
「ミーシャ!」
「分かってるわ!」
ミーシャは即座にシールドを展開した。先ほどよりも遥かに強力な黄金色の防護結界が、一行を包み込む。レベルアップによって増幅された魔力が眩い光となって輝き、迫りくる破壊の波に立ち向かおうとしている。
直後――。
ドォォォォォォン!
凄まじい衝撃波が一行を襲った。世界が揺れ、大地が悲鳴を上げ、空気が灼ける。巨岩や巨木たちが衝撃波に乗って次々と飛んできて、数トンはあろうかという岩の塊が弾丸のような速度でシールドに激突する。
「ひぃぃぃ!」「いやぁぁぁ!」「こわいこわいこわい!」「死にたくないよぉぉぉ!」
少女たちが頭を抱えてしゃがみ込んだ。互いの身体を抱き合い、恐怖に震えながら、ただ嵐が過ぎ去るのを待つことしかできない。シールドが軋む音が聞こえる。ヒビが入る音が聞こえる。いつ砕けてもおかしくない。
「きゃははは! すごいすごい! このシールドもいいねぇ。くふふふ……」
シアンだけが無邪気に手を叩いて喜んでいた。彼女にとってこの終末の光景は、花火大会と何ら変わらないのだろう。
永遠に続くかのような轟音と衝撃と恐怖が、彼らを包み込み続ける。レオンは理不尽極まりない状況に思わず頭を抱えた。
やがて衝撃波が収まっていった。風が止み、轟音が遠ざかり、静寂が戻ってくる。
レオンは恐る恐る顔を上げ、そして絶句した。
辺り一面が完全に変わり果てていた。魔の山方向に広がっていた魔の森と呼ばれる広大な森林地帯、恐ろしい魔物たちが跋扈していた禁断の領域だったはずの場所には、その面影がどこにもなかった。
ただ荒廃した大地が広がるばかり。木々は根こそぎ薙ぎ倒され、大地は抉れ、岩は砕け散っている。地平線の彼方まで赤と黒と灰色だけが支配する死の世界。ここに生息していたであろう魔物たちの姿も一体も見えなかった。
「あわわわ……」
あまりの惨状にレオンは言葉を失った。これが熾天使の力。これが創造主の使いのほんの気まぐれ。人間など本当に塵芥に等しい存在なのだと、改めて思い知らされた。
だが、こんなことが許されるのだろうか。
これが王都に落ちていたら、数十万人が蒸発していたのだ。いくら何でもやりすぎである。
レオンは楽しげなシアンをにらむ。
「あ、あなたは天界の方ですよね?」
「そうだよ?」
シアンはキョトンとして小首をかしげた。
「なんでこんなことをするんですか!?」
気がつけば叫んでいた。
レオンは藁にもすがる思いで叫んだ。
「うん! いいよ!」
シアンはニコッと笑ってあっさりと頷いた。拍子抜けするほどあっさりと。
「魔の山は僕が創ったんだから、よく知ってるぅーー!」
彼女は宙に浮かぶ魔法陣を指さすと、チョコチョコっと指先を動かした。軽やかに、優雅に、子供がお絵描きをするような気軽さで終末の魔法を操っている。
「ホイホイホイっとね!」
魔法陣の一部が真紅から青へと書き換えられていく。術式が修正され、照準が変更される。
「それ行けぇ! きゃははは!」
直後――魔法陣が閃光を放ち、真っ赤に炸裂した。世界が光に埋まる。すべての色が消え、すべての影が消え、純白の閃光だけが世界を支配する。
「ぐわぁぁぁ!」「ひぃぃぃ!」「まぶしっ……!」「目がぁ……!」
少女たちが悲鳴を上げて目を覆う。レオンも思わず腕で顔を庇った。網膜が焼けるような圧倒的な光。太陽を直視した時の何百倍もの眩しさ。
「きゃははは! たーまやー!!」
シアンだけが花火大会を楽しむ子供のように楽しげに笑っていた。
やがて光が収まり、少しずつ世界に色が戻ってくる。レオンは恐る恐る目を開け、言葉を失った。
「くはぁ……」
山脈の向こうに、灼熱の巨大なキノコ雲が噴き上がっている。先ほど見た光景よりもさらに巨大な、さらに恐ろしい、天を衝くほどの終末の炎。その高さは数十キロメートルはあるだろうか。雲を突き抜け成層圏にまで達する途方もない規模で、キノコ雲の内部では灼熱の赤色が渦巻き、稲妻が閃いている。まるでそこだけ別の太陽が生まれたかのような凄まじい熱量だった。
続いて白い繭のような球形の衝撃波が広がっていくのが見えた。ゆっくりと、けれど確実に、こちらにも向かって迫ってくる。世界を揺るがす終末の波動が、今まさにレオンたちを飲み込もうとしていた。
その速度は、見た目よりも遥かに速かった。
音速を超え、暴風を伴い、すべてを薙ぎ払いながら迫ってくる破壊の波。大地を削り、岩を砕き、空気そのものを灼きながら、終末の衝撃波が五人に向かって押し寄せてくる。
「え? これ、もしかして……」
レオンの声が震えた。あの巨大なキノコ雲から放たれた衝撃波が、今まさに自分たちを飲み込もうとしている。とても逃げられない。
「ほっとくと吹き飛ばされちゃうぞ? きゃははは!」
シアンは実に楽しそうに笑った。まるで遊園地のアトラクションを楽しんでいるかのように。
「ミーシャ!」
「分かってるわ!」
ミーシャは即座にシールドを展開した。先ほどよりも遥かに強力な黄金色の防護結界が、一行を包み込む。レベルアップによって増幅された魔力が眩い光となって輝き、迫りくる破壊の波に立ち向かおうとしている。
直後――。
ドォォォォォォン!
凄まじい衝撃波が一行を襲った。世界が揺れ、大地が悲鳴を上げ、空気が灼ける。巨岩や巨木たちが衝撃波に乗って次々と飛んできて、数トンはあろうかという岩の塊が弾丸のような速度でシールドに激突する。
「ひぃぃぃ!」「いやぁぁぁ!」「こわいこわいこわい!」「死にたくないよぉぉぉ!」
少女たちが頭を抱えてしゃがみ込んだ。互いの身体を抱き合い、恐怖に震えながら、ただ嵐が過ぎ去るのを待つことしかできない。シールドが軋む音が聞こえる。ヒビが入る音が聞こえる。いつ砕けてもおかしくない。
「きゃははは! すごいすごい! このシールドもいいねぇ。くふふふ……」
シアンだけが無邪気に手を叩いて喜んでいた。彼女にとってこの終末の光景は、花火大会と何ら変わらないのだろう。
永遠に続くかのような轟音と衝撃と恐怖が、彼らを包み込み続ける。レオンは理不尽極まりない状況に思わず頭を抱えた。
やがて衝撃波が収まっていった。風が止み、轟音が遠ざかり、静寂が戻ってくる。
レオンは恐る恐る顔を上げ、そして絶句した。
辺り一面が完全に変わり果てていた。魔の山方向に広がっていた魔の森と呼ばれる広大な森林地帯、恐ろしい魔物たちが跋扈していた禁断の領域だったはずの場所には、その面影がどこにもなかった。
ただ荒廃した大地が広がるばかり。木々は根こそぎ薙ぎ倒され、大地は抉れ、岩は砕け散っている。地平線の彼方まで赤と黒と灰色だけが支配する死の世界。ここに生息していたであろう魔物たちの姿も一体も見えなかった。
「あわわわ……」
あまりの惨状にレオンは言葉を失った。これが熾天使の力。これが創造主の使いのほんの気まぐれ。人間など本当に塵芥に等しい存在なのだと、改めて思い知らされた。
だが、こんなことが許されるのだろうか。
これが王都に落ちていたら、数十万人が蒸発していたのだ。いくら何でもやりすぎである。
レオンは楽しげなシアンをにらむ。
「あ、あなたは天界の方ですよね?」
「そうだよ?」
シアンはキョトンとして小首をかしげた。
「なんでこんなことをするんですか!?」
気がつけば叫んでいた。



