「……は?」
その一言に、空間そのものが軋んだ。
シアンの身体から鮮烈な青い光が噴き出す。それは憎悪のオーラだった。純粋で混じりけのない、剥き出しの怒り。呼吸すら苦しくなるほどの威圧感が五人を押し潰そうとする。
「何? この僕を追い返そうっての?」
シアンの碧い瞳がギラリと光った。その瞳の奥に星が爆ぜるような激しい光が渦巻いている。
「ふざけ……ないで?」
シアンがブン! と腕を振った。ただそれだけ。けれど刹那、青い閃光が辺り一帯を駆け抜けた。ズン! という衝撃音が腹の底まで響き、エーテルの結晶が割れ、大地が裂けた。まるで紙を引き裂くように亀裂が蜘蛛の巣のように広がっていき、地面が隆起し、岩が砕け、土砂が舞い上がる。
「うひぃ!」「きゃぁぁぁ!」「な、なに……!?」「いやぁぁぁ!」
少女たちの悲鳴が轟音にかき消される。腕を振っただけで大地はズタズタ。その圧倒的な破壊力に、一行は完全に圧倒された。これが熾天使の力。これが世界を創った存在の、ほんの気まぐれ。レオンは全身が震えるのを止められなかった。
滅ぼされる。本能がそう叫んでいる。この存在の怒りを解かなければ、大陸もろとも文字通り消し飛ばされる。
「あ、い、いや……っ」
レオンは必死に言葉を探した。冷や汗が顎を伝って落ちていく。
「お、お願いしたいことは山ほどあってですね! こ、こんな機会二度とないんですから!!」
声が裏返った。情けないほど必死な声だった。
「そうよ? あったり前じゃない!」
シアンはフンと鼻を鳴らした。
「僕が出てくる時はたいてい星ごと焼き払う時なんだから。こんなふうに願いなんて聞かないわ」
星ごと焼き払う。その言葉にレオンは息を吞む。この存在にとって星を一つ滅ぼすことなど日常茶飯事なのだ。人間が虫を踏み潰すように、彼女は数多の命ごと星を焼き払う。それが熾天使という存在なのだ。
「お、お願いできるのは破壊……だけなんですか?」
レオンは震える声で問いかけた。シアンの眉がピクリと動き、青いオーラがわずかに和らいだ。
「うーん……」
彼女は人差し指を顎に当てて考え込む。
「ぶっ壊さない願いでも、面白ければいいんだけど……」
その言葉にレオンの胸に一筋の希望が灯った。面白ければ。つまり彼女の興味を引くことができれば、破壊以外の願いも叶えてもらえるかもしれない。
しかし――。
「もう術式は起動しちゃったんだよねぇ」
シアンはあっけらかんとそう言って、空を指さした。
「……は?」
レオンは恐る恐る見上げ、息を呑んだ。空に巨大な輝く円が浮かんでいた。それは雲よりも高く、はるかかなた宇宙に描かれた、直径百キロはあろうかという真紅に輝く魔法陣。血のように赤く、炎のように燃え盛る終末の紋章。
その中では幾何学模様が高速で描かれ続けている。複雑怪奇な紋様が次々と組み上がっていく様は、まるで終末を告げる審判の書が開かれていくかのようだった。禍々しく、美しく、そして圧倒的に、それは宇宙に浮かぶ死の宣告だった。
「はぁっ!? こ、これ、どうなるんですか!?」
レオンは悲鳴のような声を上げた。
「へ?」
シアンはきょとんとした顔で首を傾げた。
「バーンってなって、ドーン! だよ。最初の依頼通り王都にドッカーン! 王都くらいなら跡形もなく吹っ飛ぶよ。きゃははは!」
王都くらいなら。跡形もなく。吹っ飛ぶ。その言葉の意味を脳が理解することを拒否していた。王都には何十万もの人々が暮らしている。子供たちが笑い、恋人たちが語らい、老人たちが孫の成長を見守っている。そのすべてが跡形もなく吹き飛ぶ。一瞬で灰燼に帰す。
「ダメ! ダメです! 止めてください!」
レオンは必死に叫んだ。声が枯れるほどに。
「えーっ? もう止まらないよ」
シアンは心底不満そうな顔をした。まるでせっかくの遊びを邪魔された子供のように。
「じゃあどこに落とすの? 照準リセットしたら、ここに落ちてくるよ?」
ジト目でレオンをにらむシアン。レオンは真っ青になった。ここに落ちてくる。つまり今いるこの場所があの魔法陣の標的になるということだ。王都を跡形もなく吹き飛ばすエネルギーが、自分たちの頭上に降り注ぐ。
「ひぃぃ!」「いやぁ!」
少女たちは四人とも真っ青になって身を寄せ合っていた。守らなければ。この子たちを絶対に守らなければ。どうする。どうすればいい。こんなとてつもない魔法をいったいどうすれば。
「魔の山!」
その時、ミーシャが声を上げた。聡明な彼女の頭脳が、一つの答えを導き出したのだ。
「魔の山に落としてもらいましょう! 確かあの山脈の向こうにある……!」
彼女は遠くに見える山脈を指さした。魔の山――魔物たちの巣窟とされる禁断の領域。人間が近づくことすら許されない呪われた山。あそこなら被害は最小限に抑えられる。
その一言に、空間そのものが軋んだ。
シアンの身体から鮮烈な青い光が噴き出す。それは憎悪のオーラだった。純粋で混じりけのない、剥き出しの怒り。呼吸すら苦しくなるほどの威圧感が五人を押し潰そうとする。
「何? この僕を追い返そうっての?」
シアンの碧い瞳がギラリと光った。その瞳の奥に星が爆ぜるような激しい光が渦巻いている。
「ふざけ……ないで?」
シアンがブン! と腕を振った。ただそれだけ。けれど刹那、青い閃光が辺り一帯を駆け抜けた。ズン! という衝撃音が腹の底まで響き、エーテルの結晶が割れ、大地が裂けた。まるで紙を引き裂くように亀裂が蜘蛛の巣のように広がっていき、地面が隆起し、岩が砕け、土砂が舞い上がる。
「うひぃ!」「きゃぁぁぁ!」「な、なに……!?」「いやぁぁぁ!」
少女たちの悲鳴が轟音にかき消される。腕を振っただけで大地はズタズタ。その圧倒的な破壊力に、一行は完全に圧倒された。これが熾天使の力。これが世界を創った存在の、ほんの気まぐれ。レオンは全身が震えるのを止められなかった。
滅ぼされる。本能がそう叫んでいる。この存在の怒りを解かなければ、大陸もろとも文字通り消し飛ばされる。
「あ、い、いや……っ」
レオンは必死に言葉を探した。冷や汗が顎を伝って落ちていく。
「お、お願いしたいことは山ほどあってですね! こ、こんな機会二度とないんですから!!」
声が裏返った。情けないほど必死な声だった。
「そうよ? あったり前じゃない!」
シアンはフンと鼻を鳴らした。
「僕が出てくる時はたいてい星ごと焼き払う時なんだから。こんなふうに願いなんて聞かないわ」
星ごと焼き払う。その言葉にレオンは息を吞む。この存在にとって星を一つ滅ぼすことなど日常茶飯事なのだ。人間が虫を踏み潰すように、彼女は数多の命ごと星を焼き払う。それが熾天使という存在なのだ。
「お、お願いできるのは破壊……だけなんですか?」
レオンは震える声で問いかけた。シアンの眉がピクリと動き、青いオーラがわずかに和らいだ。
「うーん……」
彼女は人差し指を顎に当てて考え込む。
「ぶっ壊さない願いでも、面白ければいいんだけど……」
その言葉にレオンの胸に一筋の希望が灯った。面白ければ。つまり彼女の興味を引くことができれば、破壊以外の願いも叶えてもらえるかもしれない。
しかし――。
「もう術式は起動しちゃったんだよねぇ」
シアンはあっけらかんとそう言って、空を指さした。
「……は?」
レオンは恐る恐る見上げ、息を呑んだ。空に巨大な輝く円が浮かんでいた。それは雲よりも高く、はるかかなた宇宙に描かれた、直径百キロはあろうかという真紅に輝く魔法陣。血のように赤く、炎のように燃え盛る終末の紋章。
その中では幾何学模様が高速で描かれ続けている。複雑怪奇な紋様が次々と組み上がっていく様は、まるで終末を告げる審判の書が開かれていくかのようだった。禍々しく、美しく、そして圧倒的に、それは宇宙に浮かぶ死の宣告だった。
「はぁっ!? こ、これ、どうなるんですか!?」
レオンは悲鳴のような声を上げた。
「へ?」
シアンはきょとんとした顔で首を傾げた。
「バーンってなって、ドーン! だよ。最初の依頼通り王都にドッカーン! 王都くらいなら跡形もなく吹っ飛ぶよ。きゃははは!」
王都くらいなら。跡形もなく。吹っ飛ぶ。その言葉の意味を脳が理解することを拒否していた。王都には何十万もの人々が暮らしている。子供たちが笑い、恋人たちが語らい、老人たちが孫の成長を見守っている。そのすべてが跡形もなく吹き飛ぶ。一瞬で灰燼に帰す。
「ダメ! ダメです! 止めてください!」
レオンは必死に叫んだ。声が枯れるほどに。
「えーっ? もう止まらないよ」
シアンは心底不満そうな顔をした。まるでせっかくの遊びを邪魔された子供のように。
「じゃあどこに落とすの? 照準リセットしたら、ここに落ちてくるよ?」
ジト目でレオンをにらむシアン。レオンは真っ青になった。ここに落ちてくる。つまり今いるこの場所があの魔法陣の標的になるということだ。王都を跡形もなく吹き飛ばすエネルギーが、自分たちの頭上に降り注ぐ。
「ひぃぃ!」「いやぁ!」
少女たちは四人とも真っ青になって身を寄せ合っていた。守らなければ。この子たちを絶対に守らなければ。どうする。どうすればいい。こんなとてつもない魔法をいったいどうすれば。
「魔の山!」
その時、ミーシャが声を上げた。聡明な彼女の頭脳が、一つの答えを導き出したのだ。
「魔の山に落としてもらいましょう! 確かあの山脈の向こうにある……!」
彼女は遠くに見える山脈を指さした。魔の山――魔物たちの巣窟とされる禁断の領域。人間が近づくことすら許されない呪われた山。あそこなら被害は最小限に抑えられる。



