【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~戦闘力ゼロの追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と送る甘々ライフ~

 レオンは、スケッチを見つめ続けていた。

 三日月を喰らう鷲――――。

 その紋章が、脳裏に焼き付く。

 その紋章を目にした瞬間、レオンの世界から音が消えていたのだ。

 老魔術師の声も、ギルバートの怒りも、全てが遠い世界の出来事のように聞こえる。まるで水の中に沈んでいるかのような、くぐもった音。けれど、紋章の形に脳裏に錆び付いた記憶の扉をこじ開けられていた。

 三日月を喰らう、鷲。

 長い間、固く閉ざし、鍵をかけ、封印していた扉。決して思い出してはならない扉。それが音を立てて開き、封じ込めていた記憶が、鮮血の色と共に溢れ出す。


       ◇


 あれは七年前、レオンがまだ十一歳だった頃。

 活気に満ちた街の大通り。太陽が燦々と輝き、青空が広がっている。露店が並び、人々が行き交う。笑い声、掛け声、全てが平和で温かかった。

 まだ幼いレオンの手を、もっと小さな妹リナがしっかりと握っていた。小さな、温かい手。その感触が、今でも忘れられない。

 リナは七歳。小さくて、可愛くて、いつも笑っていた。茶色い髪を二つに結んで赤いリボンをつけ、白いワンピースを着て。まるでお人形さんみたいだった。

『お兄ちゃん、見て! あのリンゴ飴、大きいよ!』

 リナが屋台を指差して叫んだ声は、鈴のように澄んでいた。

『ねえ、買って買って!』

 リナがレオンの服の袖を引っ張る。

『分かった分かった。じゃあ、買ってあげるから』

 レオンは笑いながら答えた。妹が喜ぶ顔を見るのがレオンの幸せだった。二人は手を繋いで、笑いながら、屋台へと向かった。

 平和な、幸せな日常。それが一瞬で地獄に変わった――――。


       ◇


 突然、遠くから蹄の音が聞こえてきた。ガン! ドン! という激しい音。そして人々の悲鳴。

「馬車の暴走だ!」「逃げろ!」

 レオンが振り返ると、制御を失い暴走する一台の豪華な馬車があった。二頭の馬が狂ったように走っている。その目は赤く充血し、泡を吹いている。御者はもう馬車にいない。馬車は次々と人を轢きながら、突進してくる。

「危ない!」「キャァァァ!」「ひぃぃぃ!」

 人々が逃げ惑い、押し合い、転び、踏みつけられる。パニック。レオンとリナも人の波に飲み込まれた。

「お兄ちゃん!」

 リナが叫ぶ。けれど二人は突き飛ばされ、リナが転んだ。小さな体が地面に倒れる。

「リナ!」

 レオンが叫ぶ。けれど人々に押され、妹から離れていく。

「お兄ちゃーーん!」

 リナが助けを求めて手を伸ばす。その顔には恐怖が浮かび、涙が頬を伝っている。

 レオンは何とか妹に向かって走り、腕を伸ばし、妹の手を掴もうとした。けれど、その瞬間、暴走してくる馬が視界に入った。巨大な体、赤く充血した目、泡を吹く口。その異常な迫力に、レオンの体が硬直した。足が動かない。腕が止まる。呼吸ができない。恐怖が全身を支配する。

「お兄ちゃん! 助けてぇぇぇぇ!」

 妹の叫び声。けれど、レオンは動けなかった――――。

 世界が砕ける音。

 小さな体が、宙を舞う。

 馬車が妹を轢いた。まるでスローモーションのように、ゆっくりと。そして地面に落ちる。ドサッという鈍い音――――。

 人々の喧騒の中、レオンはただ動けなかった。自分の足元に赤い液体が流れてくる。温かく、粘ついている。

 そこに横たわる小さくて動かなくなった体。白いワンピースが真っ赤に染まり、茶色い髪が血に塗れ、赤いリボンが地面に落ちている。そして目。開いたまま、動かない。光を失った目。

「リナ……?」

 レオンの口から震える声が漏れた。近づき、膝をつき、妹の体を抱き上げようとする。けれどその瞬間、手が血に塗れた。真っ赤な温かい血がその手のひらを覆い、指の間を伝っていく。その感触がレオンの脳に焼き付いた。

「あ……あ……」

 声にならない声。吐き気。めまい。世界が回る。

 血液恐怖症。その日、レオンの魂に刻まれたトラウマ。

 だが今、蘇ったのはそれだけではなかった。

 絶望の淵で、レオンは見ていた。群衆の中に一人の男がいた。黒いローブを纏った不審な男。周囲の人々がパニックに陥り、悲鳴を上げ、逃げ惑っている中で、その男だけが冷静だった。いや、冷静というより満足げだった。その顔には薄い笑みが浮かんでいた。まるでこの惨劇を楽しんでいるかのような――――。

 そして男は立ち去った。群衆の中に溶けるように。

 けれどその瞬間、夕日が男のローブの袖口を照らした。そこに銀糸の刺繍がある。それが太陽の光を反射して、キラリと光った。

 三日月を喰らう、一匹の鷲。

 その紋章を、レオンは見た。それは一瞬のことだった。けれど確かに見た。脳裏に焼き付いた。あの時は意味が分からなかった。ただの紋章――――。

 けれど今、その意味が分かった。

「あ……、あぁ……」

 レオンの口から乾いた声が漏れ、手からスケッチが滑り落ちた。呼吸が浅くなり、心臓が氷の手に鷲掴みにされたかのように痛む。